「アシモフ選集」との再会 | DVD放浪記
2019-04-28 09:46:47

「アシモフ選集」との再会

テーマ:IAとその周辺

 

アイザック・アシモフはSF作家として、また、良質な謎解きミステリの書き手としてよく知られている。実際、クラークやハインラインとともにSF作家御三家として鳴らしたかつてほどではないにせよ、彼の作品は今なお増刷が続いている。

 

 

 

 

ただ、よほどのファンであっても、F&SF(ファンタジー・アンド・サイエンス・フィクション)誌に長年連載されていた科学エッセイ集(ハヤカワNV文庫と社会思想社文庫などから刊行)をのぞいて、アシモフのノンフィクションを愛読しているという御仁は少ないのではないだろうか。

 

 

 

だが、アシモフの著作の大半は、科学を中心に多方面にわたるノンフィクション(その中には大部な自伝もある)が占め、たとえば、彼の最初の著作100冊を単純なアウトップト総体でみる限り、純粋な創作分野は実にマイナーな存在でしかない

 

ちなみに、彼の著作が100冊を超えたとき、朝日新聞の文化欄が比較的大きく取り上げていたことを思い出す)。そのアシモフが矢つぎばやにノンフィクションを大量生産していた時期の活躍ぶりを如実に示すのが、共立出版社から刊行されたアシモフ選集全34巻である。

 


 

〈数学編〉 監修:矢野健太郎

1:数の世界

2:量の世界

3:代数の世界

4:速くてやさしい算数

5:やさしい計算尺入門

 

〈歴史編〉 監修:岩田一男

1:エジプト人

2:ギリシャ人

3:ローマ共和国

4:ローマ帝国

5:創世記のことば

6:出エジプト記のことば

7:ギリシャ・ローマ神話のことば

8:世界の地名

9:フランクリンと凧

10:英単語の歴史

11:暗黒時代

12:近東の歴史

13:イギリスの歴史

 

〈化学編〉 監修: 崎川範行

1:宇宙をつくる元素

2:炭素の世界

3:窒素の世界

4:生命の化合物

 

〈生物編〉 監修:太田次郎

1:生物学小史

2:人体の話

3:人種とは

 

〈天文編〉 監修:小尾信弥

1:地球と月

2:太陽の王国

3:宇宙のはてまで

4:宇宙① 太陽系から星雲まで

5:宇宙②

 

 

〈物理編〉 監修: 藤岡由夫

1:物理とは① 運動・音・熱

2:物理とは② 光・磁気・電気

3:物理とは③ 電子・陽子・中性子

4:ニュートリノ

 



 

もしかすると、これは、当時刊行されていた白揚社の「ガモフ全集」を凌駕せんものと企画されたシリーズだったのではないかと思われるのだが、その刊行内容をみると、歴史編(非サイエンス系)の占める割合が目立ち、自然科学プロパーの読者には「なんだこれ?」的な印象を持たれ、一般読者には、本格的な歴史ものとしては薄味に思われはしないかと、私など、ガキなりに、心中その行く末を案じたものである。

 

不幸にしてその予感は的中し、シリーズの売れ行きは振るわず、『フランクリンと凧』などのわずかな例外を除くと、書評で取り上げられることも少なかったように記憶している。この企画との関連で版権を押さえていたものか、『科学の語源』『科学技術人名辞典』などの別途刊行された良書(と私は思うのだが)も含め、そうしたアシモフのノンフィクションが組織的に刊行されたことを知る人も少なくなっているのではないだろうか。

 

 

 

 

 

月日は流れ、東京国際ブックフェアで版元のブースを見つけたとき、このアシモフ選集の企画立ち上げからその消滅までの顛末を知りたくて、編集の方はいませんかと尋ねたところ、この企画の担当者は既に会社にはおらず、詳細はわかりませんとの答えが返ってきただけだった。

 

だから、少し前に、行きつけの図書館の収蔵本の内容をダメもとで検索したところ、その選集が(ただ1巻のみの欠品を除き)見つかったときには心底驚き、早速『フランクリンと凧』を借りだしたことはいうまでもない。これで、長く失われていた宝の山とのんびり付き合うことができるのだと思うと、本当に満ち足りた気分になったものだったのだが、その幸福な時は長くは続かなかった。 (^^;