久しぶりにブログに本格的な長文を投稿します。(しかもかなり長いです💦)
ビリー・エリオットの時に投稿し、大反響だった【スウィングという役割】
この投稿は、お客様からは「スウィングというものがどういうものか知ることが出来た」と多数コメントを頂き、また同業の関係者にも沢山リブログして頂きました。
そもそもスウィングって何?という方、まだお読みになっていない方はまずはこちらをお読みください。
今回メリー・ポピンズで実際に私がスウィングを経験するにあたり、改めてこの役割について投稿しますと予告したまま時は過ぎ、遂には東京公演は千穐楽を迎えるまでになってしまいました。
これはスウィング兼ダンスキャプテンという役割によって時間的にも精神的にも、ゆっくりとブログを書くゆとりがなかったことを物語っています。いや、単にキャパが小さかったり時間の使い方が下手なだけかもしれませんが😅(ただ実際、これまでブログ投稿に充てていた電車での行き帰りの時間はもっぱら前回上演動画のチェックに充てられていました)
さて、いよいよ本題です。
スウィング。依然として日本ではまだまだ知られていない役割です。
残念なことにお客様に知られていないだけでなく、実際にこのシステムを導入している日本演劇界自体においても過渡期、否、黎明期と言えそうです。
実際にスウィングとしてキャスティングされ稽古開始時から今日まで大変な日々でしたが、苦労話を聞いてもらおうというものでも、誰かを糾弾しようというものでもありませんので、前置きとして「感情的にならず事実を淡々と述べ、ありのままの内容をお届けする」ことに徹しようと思います。
そう、まさに演劇がそうであるように☺️
取り上げるべき大きな点は二つあります。
①ロンドン・ブロードウェイと日本では興行形態が異なり、それを海外・日本クリエイティブスタッフがより理解を深める。
②日本ではギャランティーの基準が曖昧である。
この二点がクリアにならない限り、日本での潤沢なスウィングシステムは確立しないのではないかと考えます。
今回スウィングを引き受けるにあたり、ロンドン・ブロードウェイでスウィング経験のある知人からそれぞれのスウィング事情を伺いました。それを元に綴っていきますね。
海外作品の日本版の稽古は大抵海外スタイルで進みます。プロダクションによって多少の違いはあるとは思いますが、スウィングは稽古場で全体の中に入って稽古することはほぼありません。メリー・ポピンズもそうでした。
全体稽古中は主に観察&メモ。(今は便利なので録画もします)大きく体を動かしてダンスを確認できるのは休憩中や全体が終わってから退館までのわずかな時間。舞台稽古中もひたすら観察&メモ。プレビュー中はリハーサル室で本番の音に合わせてスウィングのみで通し稽古。
稽古場では2枠分、舞台では1枠、かろうじてざっと通し稽古に加わることが出来ましたが、海外スタイルからしたらかなり恵まれた環境だったようです。
さて、ではここで①について考えます。
メリー・ポピンズ日本版はスウィングがローテーションで出演します。
男性の場合、12枠を3人のスウィングがカバー。1人4枠は確実に受け持つことになります。(もちろん万が一に備えてその他の枠の動きも全て覚えます)その4枠を週2回ずつ出演して合計8回。ということは実は万が一に備えてスタンバイする人員はなく、完全にダブルキャストの状態です。(女性は9枠を3人のスウィングがカバーするので、スタンバイとして袖待機することが2回できました。そしてそのおかげで実際に救われた公演もありました)
具体的にどの枠を確実にカバーするのかは稽古を進めながら決まって行きましが、このようなローテーションになることは稽古当初から決まっていました。
ところが海外では、スウィングはこのようなローテーションで機能することはほぼありません。初日が明けてから、プリンシパルカバーの稽古などとともに改めて舞台上でリハーサルする猶予があるとのことです。
ここに問題点がありました。
初日が近づいてもいっこうに稽古をさせてもらえない日々。海外クリエイティブに日本クリエイティブサイドが働きかけても門前払い。
『お客様にお見せするShowが何一つ出来上がっていない段階なのにどうしてスウィングを入れることができようか』
という考えがあるからです。
初日が明けると同時に4人分の役を週8回出演するのが決まっているにもかかわらず、海外で定着しているスウィングシステムを大前提にした稽古が徹底して進められました。
そもそも、日本独特のダブルキャストでの上演自体、海外クリエイティブにとっては2倍の労力のようでした。また、子役は4組いましたのでシーンによっては4倍です。
アンサンブルキャストはこの組み合わせを入れ替えての稽古の際も休むことなく2倍、4倍と動き続けました。
もしも我々の肩書きが[スウィング]ではなく[(スウィングの役割も担う)ダブルキャスト]であったなら、キャストを入れ替える際に一緒に稽古することが出来たのではないかと思うのです。それはスウィングのためにも、アンサンブルキャストのためにも有益だったはずです。
結果的に限られた回数の通し稽古(枠によっては全くなし)と、海外クリエイティブが帰国した後に行った短めの場当たりのみで本番に臨むことになりました。
こうした状況の中、毎日必ずと言っていいほど何かしら失敗を繰り返しながらの出演はお客様にも共演者にも申し訳なく、正直精神的にもかなり辛い日々でした。また、メリー・ポピンズのような、一歩間違えれば大きな危険が伴うオートメーション(コンピューター制御により自動で大道具が動く)の舞台機構の公演において、実はかなりハイリスクでした。
しかし、前回のブログでも紹介したように、スウィングは作品中の様々な役の台詞、振付、コーラスパートなど沢山の情報を記憶して、いつでも舞台上でパフォーマンス出来る状態を維持せねばならず、それをこなせるだけの技術と経験が必要であり、最上級の尊敬に値する地位の高い役割です。
メリー・ポピンズ日本版振付補のリチャード氏は我々スウィング6名に言いました。「僕はキャスティングをするのに、まずスウィングから決める。とても重要だし、君たちにはその価値がある」
その期待に応えるためにも、どんなに辛くてもみんなで笑顔で乗り切り、舞台で最大限のパフォーマンスをしようと誓い、稽古と本番に臨む毎日でした。
では、スウィングがその価値に見合う扱いなのか、②について考えます。
ロンドンとブロードウェイでは歴史や相場の違いこそあれ、俳優組合が存在します。
(組合入会資格を取るまでは大変で、入会費もかなり高いそうですが)
その組合によってギャランティーに明確な基準が設けられています。それは一週間の公演回数、客席の数などにより決められます。
スウィングは、アンサンブルに支払われるべき最低賃金の他、追加料金が発生し、カバーする役割や実際出演した際にもそれぞれさらに追加料金が発生します。ダンスキャプテンにも追加料金が発生します。
稽古期間中もギャランティーが発生し、支払いは週給だそうです。
これに対し日本では俳優組合はなく、ギャランティーの基準もありません。
制作会社それぞれによって単価や計算方法もまちまちです。
稽古期間はギャラは発生しません。大きなプロダクションの場合2ヶ月ほど完全拘束されるのでその期間は無収入になります。
支払い時期もまちまちで、時には稽古開始から4〜5ヶ月支払われない場合もあります。
これを前提に、私が実際にスウィングを引き受けるにあたりどうだったのかお話しします。
スウィング料金、ダンスキャプテン料金は確かに発生しました。しかし、前述の通り制作会社によって基準が違います。結果、出演料・スウィング料金・ダンスキャプテン料金全てを足して、目安として分かりやすく1ステージ単価で計算した場合、他の作品でアンサンブルとして出演した時のギャランティーよりも安価でした。
私はフリーランスですので出演料交渉は自ら行います。話し合いを重ねた末、最終的には当初の提示額よりもお互いなんとか納得のいく形にはなりましたが、それでもこの状態です。
余談ですが、事務所所属の場合ここまでの交渉がなされているようには見受けられず、「スウィングとしてキャスティングされていることを稽古初日に知った」「初日が明けてからギャラを初めて知りビックリ」という場合もあります。
また、紙面による契約書を交わすことも日本演劇界では稀です。乱暴な言い方をすれば「口約束」のみで成り立っているのです。
(契約書を交わす制作会社ももちろんありますが)
かなり長くなりました。そろそろまとめに入ります(^^;
スウィングを実際に経験して、その大変さは見ている時に感じた以上のものでした。想像をはるかに超えていました。
スウィングとしてキャスティングされること自体名誉なことだし、経験することで精神的にも肉体的にも頭脳的にもかなり鍛えられ、間違いなくスキルアップ・キャリアアップします。
『何度も繰り返し稽古をして身体がシンドイ』よりも『稽古したくてもさせてもらえない』ことの方が何倍もツライことも学びました。
ポジティブな要素は数多くあります。
とはいえやはり仕事である以上、見合った保証がない今の環境では進んでやりたいとは残念ながら思えません。
スウィングシステムを日本で定着させるためには、うわべだけ真似るのではなく、根本から取り組む必要があると思います。そして海外サイドと日本サイドの、信頼に基づいた話し合いと協力も。
今回メリー・ポピンズでは、プログラムの掲載順がアンサンブルキャストよりもスウィングが先になるなど、多くの配慮がなされていたのは素晴らしかったです。お客様の関心も高まったことでしょう。
100年前はブロードウェイもギャラなしの稽古が当たり前だったそうで、その後、沢山の先人達の努力と犠牲と勇気と熱意のおかげで現在があります。
私も微力ながら、スウィングという役割、日本演劇の実情を多くの方に知っていただき、延いては舞台俳優の職場環境が少しでも改善されるための一助になればという願いを込めて今回も投稿させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
これからもやるべきこと、やりたいことに全力で精進して参ります!
ありがとうございました。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
大塚たかし ソロライブVOL.5
「有りのまま、為すがまま、夏にパパ。」
久々の開催となる今回のソロライブではミュージカルナンバー、アニソン、ポップスなど、気取らずに感じたままにお気に入りの曲をお届けします。もちろん楽しいトークも相変わらずの分量でお届け予定(?)
夏にパパになる大塚たかしの有りのままのエンターテインメントに皆様は為すがまま(笑)5回目を迎えるソロライブ、是非ご一緒に楽しみましょう!
◼️日時
6月16日(土) 13:00/18:00(開場は各回の30分前)
◼️会場
目黒・芸術家の家スタジオ
東京都品川区上大崎3-14-58「クリエイト目黒」1F
http://dum-umelcu.jp/
(地図などの詳細はホームページ内「お問い合わせ」からご覧頂けます)
※目黒駅東口から徒歩10分
◼️料金
大人4,000円/小人(小学生以下)2,000円(税込/全席自由)
◼️出演者
大塚たかし
森田珠美(piano)
齊藤志穂(サポート)
◼️予約・問合先
大塚たかしソロライブ専用アドレスtakashi.sololive@gmail.com
【件名】にお名前、
【本文】にお名前(フリガナ)、希望日時、枚数、メールアドレス、電話番号を明記の上、上記アドレスからお申し込みください。
ご予約後、確認も含めて振込先などの詳細をご連絡致します。