アメリカにある会社の一定程度の規模の職場にはだいたい「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)推進委員会」みたいなのがあり、人種や性別、年齢、セクシャルオリエンテーションなどに関わらず働きやすい企業文化を作って行きましょうと色々な活動をしています。うちの職場にもD&I委員会があって肝っ玉母さんみたいなアフリカン・アメリカンのベテラン社員Tが会長を勤めています。その彼女から今年のダイバーシティイベントのコーディネーターやってみない?と誘われました。最初は私がゲイだと知ってアプローチしてきたのかな〜とドキッとしたのですが、それは考えすぎだったようで、最近アジアン・ヘイトによる暴力が頻発するニューヨークにあって、今年はアジア人にスポットライトを当てたイベントをしてみては、という声が委員会の中で上がっていたそうです。他にももっとアジア人はいるのですが、チャイニーズやコリアン、インド系は老舗メンバーがいて、ジャパニーズ(日本人、日系アメリカ人両方含め)はいないので誘われたようです。
1回目の打ち合わせで、誰かアジア系アメリカ人のインフルエンサーみたいな人に講演を頼もうよという話になり、何人か名前が挙がって、日系アメリカ人・ジョージ・タケイ氏にアプローチしてみようということになりました。彼は日系2世で、1960年台の有名TVドラマ番組「スタートレック」で有名になったアメリカでは有名な俳優です。当時のアメリカのエンタメ界において、アジア系俳優が主要な役を与えられるのは初めてだったそうで、いわばアジア系俳優のパイオニアとも言える人です。
スタートレックのヒカル・スールー役で一躍有名になる。
俳優としてだけではなく、ニュースや討論番組でコメンテーターとしても活躍。
今やアメリカのエンタメ界では大御所の一人に数えられるでしょう。日本のネットメディアで、タケイ氏を「ご意見番」と紹介しているのを見かけましたが、日本の芸能界でいうところの娯楽バラエティ番組に出てくる「ご意見番」と比べたら失礼なくらいタケイ氏の活動は幅広く、色々と勉強していて自分の影響力を社会に還元していると思います。後進のアジア系俳優たちのキャリアをサポートしたり、俳優業の傍ら日系市民協会 (JACL) に積極的に参加するなど、日系アメリカ人を含めたマイノリティーの社会的地位向上にも大きく貢献してきています。JACLの他にも日系人の関わる団体などには役員・理事として名を連ね、日系人の関わる行事にも広く出席しています。インフルエンサーとしても各SNSで社会問題、人権問題についてしっかりした見識を持っていてフォロアーも1000万人を超えるそうです。日本とアメリカの橋渡して的な活動もしていて、日本政府から旭日小綬章も授与されています。今週、85歳の誕生日を迎えたそうですが、今もバリバリ現役で活躍しています。
ジョン・トラボルタなどと同格の扱いを受ける超有名人です。
最近では全国ネットAMC系列の連ドラシリーズThe Terror「不名誉」にもメインキャストの一人として登場
タケイ氏は、2005年にはゲイであることをカミングアウトし、同性婚もしているので、個人的にとても親近感を抱いています。カミングアウト以降は、LGBTの人権問題やいじめ防止などにも精力的に関わっています。以前タケイ氏がパネリストをつとめていたイベントのレセプションで、タケイ氏のマネージャーをつとめる旦那のブラッドと知り合いました。多分、白人ばかりのゲストの中私一人日本人だったので目立ちやすかったのだと思います。タケイ氏にも紹介してもらいましたが、誠実で気さくな人柄で日系人のみならず多くの人に親しまれているようでした。その後、二人がDの実家の街を訪問し講演会を開いた時に、我々もたまたま帰省していて、Dを紹介するために講演会の楽屋に挨拶にいったりもしました。個人的にやり取りするような仲ではありませんが、日米カップルの同胞として我々を覚えてくれているようで光栄です。2ヶ月前のブログで、政界の日米パワーカップルの話を掲載しましたが、ジョージとブラッドも日米パワーカップルの大御所。インフルエンサーとして彼らの言動は、直に我々ゲイカップルの生活にも影響してくるので、活躍には目が離せません。
二人は20年超の交際を経て2008年に正式に結婚
さて、うちの会社の講演会のスピーカーとして依頼する件に話は戻り、打ち合わせの中で、私がタケイ氏にコンタクトするよ、と言ったら、「どうやって知り合ったの?意外に顔広いんだね」とみんなに驚かれました。リーダーのT女史は、ジャパニーズはみんな似てるし元は親戚同士なんでしょ?とジョークなのか本気なのか、笑っちゃうくらいすごい大雑把な括りしてました。(←どんな文脈であれ、私が「アフリカン・アメリカンはみんなきょうだいでしょ?」なんて言ったら、アフリカン・アメリカンを馬鹿にした!とか大変な騒ぎになると思いますが、、、)ダイバーシティ推進員だったら、もっと繊細になってくれよとは思いましたが。この国のダイバーシティの現状とアジア人の置かれた位置を如実に表していると思いました。
まあ、こうして私もダイバーシティ推進委員の一人になったので、ここは私が頑張って日系の存在感を示そう、ということで、タケイ氏の事務所の連絡先に問い合わせをしたら、まずスケジュールの空きが半年以上先で、講演料は驚愕の価格設定、講演やTV出演1時間4万ドル(日本円約500万円)也!うちの会社のイベントには、その100分の1(400ドル、約5万円)しか予算がついていません。例えば、チャリティーイベントとか、学校関係、人権啓蒙関係のイベントだったら条件は緩く、ボランティア(無料)とか交通費のみで請け負うのでしょうけど、やはり普通の営利企業が有名人を呼ぼうとすると安易に価格交渉などはしないのでしょうね。さすが大御所。連絡を取った週はたまたまタケイ氏が講演会やテレビの撮影がありマンハッタンに滞在していると教えてくれたので、同僚のT女史には「あなた、顔見知りなら講演会に乗り込んでゲリラ的にお願いできないの?」と勧められましたが、そういう行動って、武勇伝みたいに語られることがありますが、実はアメリカのビジネス界のプロトコール違反で、ハイリスク・ハイリターンなので、できないと思い諦めました。
参考までに、企業への講演料で荒稼ぎしていると批判されたヒラリー・クリントンの相場はその10倍の40万ドル(約5000万円)とも言われています。そうするとタケイ氏の講演料はまだまだ安い方です。うちの旦那Dが金融業界団体の依頼でパネル講演した時は、企業の代表ということで個人報酬なし謝礼スタバギフトカード$30。Dの業界イベントの同じパネルに全米ネットのニュースで活躍するフリー・アナウンサーがいてDが一緒に撮った記念セルフィー写真送ってきたのですが、調べてみたらそのアナウンサーの講演料報酬はやはりタケイ氏と同じくらいの4万ドル(約500万円)のようです。
こんなこと書くと、有名人がみな金の猛者みたいに思えてしまうかもしれませんが、これは資本主義社会であるアメリカのマーケットの相場なので、やはり、数々の努力をして有名になり、日々勉強して社会に影響力を及ぼすことができる人には、それなりの報酬を支払う事は理にかなっていると私は思います。そういう意味で、タケイ氏のような日系人が社会的インフルエンサーとしてアメリカ社会で広く認知され高く評価されていることを誇りに思います。
ジョージ・タケイ氏は、全米のみならず、定期的に日本も訪問して講演活動をしているので、もしお住まいや近くの街でのイベントを見かけたらぜひ足を運んでみてください。
先週にもNYを訪れ、コロンビア大で講演をしたようです。話がうまいのは当然ですが、本当に色々勉強してる。