喜寿を迎えた山本則俊師。山本三兄弟(山本東次郎、故 山本則直、山本則俊)の三男。
剛直のイメージがある山本家の中では、柔らか味の芸風である。
無観客の中での釣狐。
狂言次第の囃子から前シテの伯蔵主。若い狐達が猟師の罠にかかり、老狐が止めるために伯蔵主に化けて現れる。
狂言の演目の中でも位の重い曲だけれども、サラサラとしたハコビ。伯蔵主に化けた老狐の緊張がハコビを心持早くしたのだろうか。
猟師とのやり取りも、伯蔵主は、不安、怯え、緊張が謡にも身体の線にも現れている。
伯蔵主は、猟師に対してマウントを取りきれていない。語りでも、不安が隠しきれていない。
それでも猟師が罠を一旦外してから、伯蔵主の緊張が解けたのか、身体の線がシャープになり小歌もハリが出ている。
猟師が、鼠の唐揚を餌にした罠を伯蔵主の目の前に押し付けた場面で空間が変わる。
おそらく猟師は、この時点で疑いを持っていたのだろう。
帰りの道中で、再び罠に遭遇した伯蔵主は狐の体臭を抑え切る事が出来ない。
狐に戻ってから、罠の鼠の唐揚を一口食べるために幕中へ。
後シテは老狐として登場。オーラが、不安、怯え、緊張の前シテと、あまり変わらない。老狐の孤独で不安な心境が前シテからも滲み出ていたと言う事になる。
老狐は、15回の雄叫び。最後の雄叫びは、不安より欲望が勝った哀しみの雄叫び。そして罠にかかる。
罠を外して逃げて行く老狐の哀しみを映像からでも感じる。
終始、哀しみを纏った釣狐にように思えてならなかった。
直の舞台で、是非観たかった。