オルレアンの乙女ジャンヌ・ダルク(1412頃-1431)は、知らぬ人がいないくらいの女性像だろうか・・・
ジャンヌの彫像(マキシム・レアル・デル・サルトが1928年に制作)
イングランドとの百年戦争において、フランスを救い勇敢に戦ったフランス軍の一少女として、崇められている存在だ。
神のお告げを受けたという羊飼いの娘・・・が、オルレアンを奪回する!
19歳の若さで処刑され、露と消えた短い人生だった。
その彼女が登場するのが「ヘンリー六世」(第一部)である。
「ヘンリー六世」(第一部)
(白水Uブックス)
三部作の長きにわたって、英仏間の百年戦争とイングランド王家の争いである、ばら戦争が繰り広げるイングランド歴史劇。
第一部は、ヘンリー五世の葬送から始まる。
トールボット卿にこう言わせるジャンヌ・ダルク・・・
トールボット: ・・・あの魔女はまるでカルタゴの将軍ハンニバルだ、力ではなく、恐怖心を呼び起こすことによって、わが軍を壊滅させ、思いのままに勝ち誇っている、・・・ (p.46)
トールボットは、数々の功績によって、シュルーズベリー伯爵に叙されたイングランド貴族である。
ところで、「ヘンリー五世」では亡くなったはずのフォールスタッフが、
「ヘンリー六世」では、登場するのだ・・・先陣のすぐ背後に位置しており、トールボットを救援すべき立場にありながら、卑怯にも逃げ出した!
トールボットによって、「あの卑劣極まるフォールスタッフ!」と呼ばれる(第1幕)。
隊長: サー・ジョン・フォールスタッフ、いそいでどちらへ?
フォールスタッフ: どちらへ? 安全な場所へ逃げるのさ。どうやらわが軍はまたしても負けそうだぜ。
隊長: 逃げる? トールボット卿を見捨てて?
フォールスタッフ: もちろん、何百人のトールボットより、この身がかわいいからな。
隊長: 卑怯な騎士だ! いい死にかたはできないぞ!
(第3幕第2場 p.103-4)
一度は死んだフォールスタッフが再登場するというのは、不審な気もするけど、作劇上の問題として看過しておこう。
同胞がいがみ合う内紛によって、イングランドはフランスの領地を失ってしまう。
1415年-1429年
1415年のイングランド軍侵攻路 ドンレミからシノンに至るジャンヌの進路 1429年のランスに至るジャンヌの進路
百年戦争に絡み合うばら戦争・・・英仏両国間の歴史は、シェイクスピアによって見事な戯曲に作り上げられ、今なお舞台では人気を誇っている。
<シェイクスピア生誕450周年に寄せて!> ・・・ 44(11)