前回の記事「森喜朗氏「サマータイムで地球環境の持続を」→省エネに逆行、労働者の命と健康を損なうサマータイム」に引き続き、サマータイムの問題についてです。
私たち国家公務員は、2015年の夏(7~8月)からサマータイムと同様、1~2時間前倒しで働く「ゆう活」を安倍政権から押し付けられています。国公労連は導入時から「ゆう活」は公共サービス低下と国家公務員の健康・生活に悪影響を及ぼすと反対してきました。労使合意もなく政府が一方的に「ゆう活」を2015年7~8月に強行した際には、国公労連として「『ゆう活』に関する実態アンケート」を実施し、「ゆう活」で働いた国家公務員2,536人からアンケートの回答を得ました。
当初から危惧した通り、「公務・公共サービスの提供に支障が出た」と回答した国家公務員は14.0%にのぼりました。国家公務員で実施されている「ゆう活」は、国民全体の時間が前倒しになるサマータイムと違って、国家公務員の勤務時間だけが1~2時間前倒しになるので、国民との関係で「公務・公共サービスの提供に支障が出る」ことは当然ですが、さすがの政府も窓口業務のところには「ゆう活」を強制できなかったので14.0%程度の数字にとどまったという面も強いと考えられます。
同時に危惧していた国家公務員の健康・生活への悪影響の問題です。下のグラフにあるように、本府省で働く国家公務員の15.6%が「体調不良になった」と回答し、15.6%が「仕事の効率が落ちたり、疲れた」と回答しています。政府による「2015年度 国家公務員における「ゆう活」・ワークライフバランス推進強化月間取組結果」においても、24%が「寝不足になった」と回答していますから、1~2時間を前倒しにするサマータイムが労働者の24%~31.2%に「寝不足」「体調不良」「仕事効率の低下」をもたらすことは明らかです。
自由記入欄には、「身体リズムが崩れ、疲れやすくなり仕事の効率が悪くなった」(府県機関で働く女性)、「生活のリズムがくるい、疲労度が大幅にあがった」(本府省で働く男性)、「業務の量は変わらず、そもそも職員が不足しているので、勤務時間管理の事務処理が煩雑になり加わる分、負担が増加し仕事の効率も低下する」(出先機関で働く男性)、「結局、『ゆう活』と言いながら、霞が関不夜城で最も過酷な国会対応や予算担当の職員を最初から対象外としているわけで、超勤縮減やワークライフバランスに政府が本気で取り組んでいるなんてウソだ」(本府省で働く男性)、「朝が1~2時間前倒しになると、子どもを保育園に送って行くことができず、家族責任を果たせない」(出先機関で働く男性、※これは国家公務員だけが前倒しになった弊害です)などの声が寄せられています。
こうした国家公務員における7~8月の1~2時間の前倒しは、日本におけるサマータイムの実証実験とも言えると思います。そうすると、24%~31.2%に「寝不足」「体調不良」「仕事効率の低下」をもたらすことを国民全体にあてはめてみると、日本の総人口は1億2670万6千人(2017年10月1日現在)ですから、その31.2%は3,953万2千人になります。サマータイムによって、4千万人が「寝不足」「体調不良」「仕事効率の低下」をもたらすことになるわけです。
東京オリンピックの公式サイトを見ると、「3つの基本コンセプト」の1つめに、「すべての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)」を掲げ、「万全の準備と運営によって、安全・安心で、すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会を実現。ボランティアを含むすべての日本人が、世界中の人々を最高の『おもてなし』で歓迎。」などと謳われています。サマータイムで日本に住む4千万人に「寝不足」「体調不良」「仕事効率の低下」を強いておいて、アスリートには自己ベストを、すべての日本人には最高の「おもてなし」を求めるという、こんな倒錯した東京オリンピックのためのサマータイム導入は絶対に許されません。(井上伸)