【197】WGIPは「戦争についての罪悪感を日本人の心に植え付ける宣伝計画」ではない(その7)
「GHQが日本人に施した洗脳は、戦時中の中国・延安で、中国共産党が日本人捕虜に行なった洗脳の手法を取り入れたものだった。このことは近年、イギリス国立公文書館が所蔵する秘密文書で判明しており、延安での工作には、日本人共産主義者、野坂参三の協力があったことがわかっている。」(P430)
「『WGIP』が、中国共産党の洗脳に倣ったことを伝える文書は、『ノーマン・ファイル』(KV2/3261)と呼ばれるファイルに残されている。」(P431)
と説明されていますが誤りです。というか、「ノーマン・ファイル」を百田氏はほんとうに読まれたのでしょうか。読まれた上で、「戦後の日本は、共産主義者たちの一種の『実験場』にされたように見える。」と本気でおっしゃっているんでしょうか。
どこを読んでも、そんな話は出てきません。
「このことは近年、イギリス国立公文書館が所蔵する秘密文書で判明しており、延安での工作には、日本人共産主義者、野坂参三の協力があったことがわかっている。」
という部分も違和感をおぼえます。このファイルが公表されたのは2010年ですが、ご指摘の話はこのファイルで初めて明らかになったようなものではなく、1980年代に詳細にわかっています。(『赤旗とGHQ』(大森実・講談社)また、『延安リポート』(山本武利・岩波書店)などで明らかにされています。)
「ノーマン・ファイル」は、「GHQでマッカーサーの政治顧問付補佐官を務めたジョン・エマーソンが、アメリカ上院小委員会でノーマンに関して証言したものである。」とされていますが、誤りです。「ノーマン・ファイル」は全部で227ページありますが、このうち、エマーソンが証言した部分は50数ページだけです。
このファイルのエマーソンの証言の部分を読めば、「心理戦は共産主義を推奨する意図のあるものではない」と説明しているので、ノーマン・ファイルに関する百田氏の説明は意味不明としか言いようがありません。
むしろ、「戦争指導者と国民」を分離するという方法がイタリアで成功している、という話で(『延安リポート』)、中国共産党の洗脳に倣ったわけではなさそうです。
「ちなみに、『洗脳』という言葉は今日、英語でも『brainwashing』と漢語から直訳されて使われている。」(P431)
と説明されていますが、百田氏が再三使用されている「洗脳」という言葉の使い方は、心理学的には間違っていて、マインド・コントロールのことです。
そもそもノーマン・ファイルには、“brainwashing”という単語は一つも出てきません。言うまでもなく、エマーソン証言には「戦争責任を伝える計画」(WGIP)という単語も一つも出てきませんので念のため。
「呆れたことに、この時、マッカーサーをご神体に据えた『マッカーサー神社』を作ろうという提案がなされ、その発起人に当時の朝日新聞社社長の長谷部忠が名を連ねている(毎日新聞社社長、本田親男の名前もある)。」(P433)
と説明されていますが、これは恥ずかしいので一刻も早く削除されたほうがよいと思います。まったくの俗説でこんな事実はありません。
「マッカーサー記念館」を「マッカーサー神社」と揶揄した1990年代の言葉です。
ちなみに「マッカーサー記念館」の発起人は、朝日新聞や毎日新聞の社長だけでなく秩父宮さまも名を連ねておられます。