生きとし生けるモノへ語る1600の物語 | 小早川秀秋日記 ~ボクはここにいる~

小早川秀秋日記 ~ボクはここにいる~

古戦場の町関ケ原の史跡ガイド・観光案内・歴史語り部の関ケ原組創設者関ケ原おもてなし武将小早川秀秋。
2018年3月をもって一旦関ケ原を去りました。(2017/11/22日記参照)
関ケ原組からの嫌がらせと脅迫により現在定期活動はしておりません。
※写真の加工・無断転載禁止

緋色は泣いた。七年泣いた。

沢山沢山耐えて壊れて崩れていった。

それでも僅かな力で這いつくばって手を伸ばして光を求めた。されどその手は何度も何度も踏みつけられた。

人々は言った、なんて汚い姿なのだろう。泥にまみれ地べたを這いずる醜き者。1600の集まりが土を掛けているから私も掛けましょう。1600の集まりが蹴り飛ばすから私も蹴り飛ばしましょう。


理由?知らないわ。

だって皆がやっているから。


そこには1600の集まりがあった。

欲望渦巻く混沌の割れ目の地。

誰かを踏み潰して己のみが高みへ昇らんとする者。そのおこぼれに預かろうとすり寄る者。

足元には多くの小鬼が取り巻き歓声をあげる。

我について来たければ我に従わぬ者を贄に捧げよ。我にすり寄らぬ者は不要なり。

この地は我が為にぞある。

我はこの地に生まれし選ばし者なり。

我は天に認められしこの地の支配者だ。

我の許しなくこの地に踏み入ることは許さぬ。

左には黒い人形右には赤い十字架。

牛と虎と歌舞伎者を侍らせ、他者が作りし台座の上で高らかに嘲笑う。

日々綴る言葉は戦の合図。優しく囁く裏には鋭利な剣。

この剣をもって汝らは聖戦に向かうべし。

汝らには西の神がついている、汝らの行いは全て正義なり。

戦え戦え我らの小鬼よ。我らの手足となり無惨に無慈悲に舞踊れ。

東から遅れてきた子供が援護する。鳥を愛でる文化人が援護する。金色に輝くお山の民が援護する。賤しき戦の経験者が大きな太鼓で鼓舞をする。薬屋が地雷を埋めた。

西から青い一族がやって来た。

伝道師を斬り殺し牛に誘われ、裏切り者のネズミの国の絵描きを先頭に掌返して青い一族がやって来た。

名高き鯱から追われたが小鬼がやって来た。

湯気を上げ怒り狂った小鬼は誰にも止められない。あまりの傍若無人故に追われた小鬼は誰も止められない。

小鬼は吠え散らかし周囲を捲き込み喚きたてる。

高音で歌う小鬼、琵琶の畔から小太りな小鬼、鵜を抱えた小鬼、犬を連れた赤い女鬼、丸い狸のような鬼、猫に化けた鬼、十字を掲げる鬼、憎しみの春の歌を吟う鬼、どんどんどんどん鬼は集まり膨れ上がる。過激な鬼はどんどん増える。

戦え戦え我らの神の為に。

戦え戦え我らの導き手の為に。

吠えた鬼の怒りは連鎖する。

訳も分からず言われるがまま憎しみは増していく。

もう誰も始まりを知らない。

されど理由などいらない。我らが正義、我らがの行いは平和を守るもの。選ばれし者が背中を押してくれるから。選ばれし者が導いてくれるから。


我らは集ったこの地に集った。1600の絆を胸に一致団結してこの小さな一つの緋色を叩き潰す。完膚なきまでに、二度と立ち上げれないように。

みんなでやれば恐くない。

手段は問わない、あの手この手で完全消滅を目指す。

選ばれし者が認めてくれるから。

楽しいな楽しいな、みんなで力を合わせて悪い奴を退治するのは楽しいな。

我らは仲間だ、我らは正義だ。

今度は何をしようか。

心をズタズタに切り裂くものがいい、目の前だけじゃなくて電脳空間でも拡げよう。

我ら1600の絆で繋がっている。西の神がついている。これは聖戦だこれは守る戦いだ。

我らは仲間だ我らはこんなに仲良しだ。みんなでやろうみんなで遊ぼうみんなでみんなで。ああ楽しいな楽しいな血祭りに上げるのは楽しいな。



ああ、何と言う有り様なのだろう。

昔はこんな地ではなかったのに。

ここは狂っている。

何故誰も止めないのか。

止めたら私までやられてしまうではないか。

口を挟めば今度は私が贄にされる。

一人贄になれば私たちは無事でいられる。

口を紡ぎ、不満を飲み込み、見て見ぬふりをすれば私たちは守られる。

秋の祭典は私たちの楽しみだ。これを奪われるなんて生きていけない。

選ばれし者は天に守られている。うっかり手を出して選ばれし者に目をつけられてみろ、我が身の破滅だ。

金の烏が目を付けられたのを忘れたのか、不死の民が目を付けられたのを忘れたのか、湖の民は既にやられたぞ。

酔いしれた小鬼が剣を掲げて攻めてくるぞ。

ああ恐ろしい恐ろしい。

私は知らない私は何も見ていない私は関係無い。

ほら、いつも緋色は一人ぼっち。



始まりを誰も知らない。

真偽なんて関係ない。

正義も悪もどうでもいい。

選ばれし者がそう言ったから。

力ある者に群がるのが利口な生き方。

数が多い方に付くのが生き残る術。

この地は血まみれ。されども甘美な誘惑が五感を擽る。

小鬼は増える。

首筋に剣を突き立てられていた者はそっと去る。

踏み台にされた者は崩れて消えた。

されども甘い香りに誘われて次から次へと人は来る。

血染めの歴史、血塗られた旗、奪われた台座、孤高に聳え立つ無機質な要塞を背に今日も正義の名の暴力は振るわれる。


緋色は泣いた緋色は叫んだ、されども天は告げる、お前が我慢すればよい。

閉鎖された地。古き習わしが生きる地。

隠せ隠せみんなで隠せ。隠せばバレない。

守れ守れこの地に生まれし者。

変化はいらない、輪を乱すな、余所者のお前が贄にされていれば全て丸くおさまる。

皆が気持ち良くなればそれでよい。


時は過ぎた。

傀儡は用意した。

血染めの王冠は与えられた。

我らが王だお前は用済みだ。

さあさあ皆様トドメをどうぞ。

大丈夫大丈夫、立会人は学舎の仲間。

漏れないバレない我らの秘密。


1600の想いが集う古き地に

真っ赤な花をお一つどうぞ。