
飲み物を受け取り見回すと
彼は店の一番奥の窓際の席にこちらに背を向けて座っていた。
なるべく人に見られたくない彼にとっては恰好の席だ。
差し向かいに腰掛けると
都会のカフェにありがちな小さなテーブルのおかげで私達は1メートルもない距離になった。
SUICAを返しながら
ありがとうございます。
と目を覗き込むと、穏やかそうな彼の目がこちらを見ていた。
その目に少し緊張がほぐれ私は用意していた言葉を発した。
ツイッターの件ごめんなさい。
と頭を下げた。
それは素直に相手が誰だったとしても謝らなきゃいけないことだ。
彼は
私の謝罪と同時ぐらいに頭を左右に振り
いや
と短く言葉を切った。
狭い店内は隣との距離も1メートルほどしかなく
あまり仰々しいことをしたら注目されてしまう。
だからそれ以降は目立たないような動きと声のトーンに気をつけようと思った。
彼はおもむろにスマホを取り出し
ほらこれは恩師の義理の娘さんとのやり取りだけど
ハートなんて普通に使うでしょ
とラインのやり取りを見せてくれた。
確かに
また頑張って下さい💕
ありがとうございました💕
素敵でした😍
とハートが飛び交っていた。
彼としては弁解のつもりだったんだと思うけど
私には逆にそれが不快だった。
他の女性とはラインをしてるんだということも分かったし(私とはメールだけ)
それは肝心のちかこさんとのやり取りでもないし
むしろメールでのやり取りは隠しておきたい相手なんだともとれるし
どちらにしても墓穴を掘っている。
ちかこさんを巡るトラブルはこちらから
反射的に毒づいてしまった。
女性側がそう思ってるかは分からないじゃない。
私だったら何も思ってない人にハートなんて送らないよ。
それにそんなに沢山の女の人とハートを交換してたなんて…
少し睨んで冗談ぽく言おうと思ったけど
うまくいかなかった。
すると
彼はスッとスマホを隠し
やめよう、この話は
とちょっと不機嫌になったみたいだったけれど
すぐに話題を変えてくれた。
今日は会えなかったけど今度は娘さんと4人でさ
帰国の日とかに合わせて会いましょう
そしてニコリと笑顔を見せ
仲良くしようよ
と言った。
その笑顔が罪づくりだなぁと今日は客観的に見れた。