1991年の講演の翌年に再会した池田先生とコックス博士㊧。この折、博士は先生に「再び、ハーバード大学で講演していただきたい」と要請し、2度目の講演につながった(92年5月2日、東京・八王子市の創価大学で)
「21世紀文明と大乗仏教」と題し、池田先生がハーバード大学で2度目の講演。仏教の精神性に触れ、「差異へのこだわり」を超えた「開かれた対話」こそ、調和と平和の社会を築く原動力であると訴えた(1993年9月24日、同大学イエンチン・ホールで)
世界平和の実現は私たちの手で!――アメリカSGIの青年大会「正義の師子・5万」のニューヨーク会場で、声高らかに合唱する友(本年9月、ニュージャージー州ニューアークのプルデンシャルセンターで)
SGI会長が訴えた視点は現代においてこそ重要
「21世紀文明と大乗仏教」ハーバード大学での2度目の講演から25年
池田先生は1993年9月24日、世界屈指の名門・アメリカのハーバード大学で「21世紀文明と大乗仏教」と題し、91年9月に続いて2度目の講演を行った。同講演に先生を招へいした一人が当時、同大学の応用神学部長だったハービー・コックス博士である。本年で講演から25周年。コックス博士に、招へいした理由や同講演が現代に与える意義などを語ってもらった。(聞き手=木村輝明)
仏教思想は人類を調和に導く力
――池田先生の2度目のハーバード大学講演から本年で25周年を迎えました。コックス博士は、1991年に「ソフト・パワーの時代と哲学」と題して行われた1度目の講演にも出席されています。そうしたことが2度目の招へいにつながったのでしょうか?
91年の講演が行われる以前、私たちハーバード大学の関係者が持っていた仏教の印象は“異国のもの”であり、“私たちとはほど遠いもの”という考えでした。つまり、“向こう側にあって、ここにはない”との認識です。また仏教は神秘的なものであり、世界の問題を解決に導くものではないとも捉えていました。
しかし、池田SGI会長が講演された内容は、現代世界において、人間の中に深く関わっていく仏教観でした。正義と平和を希求し、人類の調和を目指す思考でした。
それまで私たちが学んできた仏教は、伝統的な種別のものでした。もちろん、それらも非常に重要ですが、“積極的に平和や人類の幸福に関わっていく仏教”と呼ぶものは当時、全く耳にしたことがありませんでした。
池田会長は、ハーバードに清新な息吹を送り込んでくれたのです。このような思想を歓迎するからこそ、私は再度、会長をお呼びしようと思ったのです。
――2度目の講演で、池田先生は、仏教に説く「自力」と「他力」に言及し、どちらか一方への偏重ではなく、二つの力のバランスを取っていく哲学が重要であると訴えました。この講演について、どのような感想をお持ちでしょうか?
非常に重要な視点であると思います。
例えば、私たちが外なる権威や巨大な力を持った何かに振り回されてしまうと、その帰結として権威主義的な政治が生まれます。政治の側から見れば、それは“私たちは自分の手で何だってできる”との過度に強調された思考であり、“自分たちに関係しない世界は必要ない”との姿勢です。
私たちはある程度、自分自身を頼りにしなければなりませんが、人間はこの世に生を受けた時から両親や学校の教師、あるいは友人など、さまざまな人の中で育まれています。真に自分だけで成長してきたという人はいません。しかし、そのような思考が今、世界に存在していないのです。
ともあれ、私たちは、自分自身の「思考」「行動」「すべきではない行動」に責任を持たねばならないと自覚する必要があります。なすべきことを怠る現代にあって、会長が講演で言及した「内なるもの(自力)」と「外なるもの(他力)」という視点は、とても重要なのです。
20世紀の悲劇を繰り返させるな
――池田先生は25年前、「21世紀文明と大乗仏教」と題して、今世紀を展望する講演を行いました。コックス博士にとって、今日の世界が抱える課題は、何だとお考えでしょうか?
今の話に通じることですが、各地で現在、一種の“民主主義の疲弊”が起こっています。リーダーや、そのリーダーを選ぶ側の人間が意思決定や責任を取ることに疲れ、どこに向かうべきなのかが分からない状態になっているのです。その結果、一部の権威主義的な形態の政府や社会に、世界が振り回されてしまっているのです。
もちろん、情報を把握し続け、こうした問題に積極的に関与し続けることは容易ではありませんが、私たちは誰かの手に委ね、放置する姿勢であってはならないのです。
人類は20世紀、権威主義やファシズムの暴走を嫌というほど味わい、巨大な破壊の衝撃を経験してきました。このような権威主義の台頭を、私は憂慮しているのです。
また世界にいまだ多く存在する核兵器も、憂うべき点です。聞いた話によれば、アメリカやロシアには、10もの天体を吹き飛ばせるほどの核兵器があるといいます。
多くの人々が“即座の核戦争は後退した”と考え、一安心しているかもしれませんが、いまだに間違いが起こる可能性は否定できません。誰かがミスを犯すかもしれませんし、また核兵器に近い人が衝動的な行動を取るかもしれません。そうなれば、とてつもない悲劇が訪れてしまうのです。
私自身、初めて訪日した折に、広島に赴いたことを鮮明に記憶しています。原爆の爆心地に向かい、その場に立った時、“人間は人類全てを破壊する力を持ってしまった”“ここから全てが変わったのだ”との思いが瞬時に込み上げ、私はそこから動くことができませんでした。この広島での思い出は、今も忘れられません。私の平和の原点となっています。
多くの人々は、広島に原爆が落とされる前と後で、とてつもなく大きな違いが生まれたことを、理解できていないのかもしれません。ましてや、世界に現存している核兵器は、広島に投下された原爆の何百倍もの破壊力を持っているのです。
核兵器の問題に対し、私たちは、ある程度は注意を向けているかもしれませんが、世界には核兵器以外にも憂慮すべき問題が山積しているため、意識がかつてのように強いものではなくなってきているように思います。
平和に向かって進む青年に期待
――アメリカSGIの青年部は本年9月、生命の尊厳と希望の新時代を開こうと、青年大会「正義の師子・5万」を開催しました。アメリカをはじめ世界各地で平和の世紀を切り開こうと奮闘する創価の青年たちに、伝えたいアドバイスはありますか?
平和を築くためのさまざまな取り組みに対し、「一人で戦うな」と助言したいと思います。
このような活動は、一人で行うものではありません。特に、アメリカでは“私は一人でもできるから、あなたも私の助けは不必要でしょう”との考えが強いと感じます。しかし、世界平和のための努力は、同じ目標に向けて奮闘する人々の支えが必要なのです。
これからも挑戦を重ねて人々を結び、何物にも揺るがない平和を創造する努力を続けていってほしいと望みます。それが私の「一人で戦うな」ということなのです。
Harvey Cox 1929年生まれ。宗教学博士。ハーバード大学教授、応用神学部長などを歴任。マーチン・ルーサー・キング博士の盟友として公民権運動を共に闘った。現代社会の宗教現象を分析し、ベストセラーとなった『世俗都市』や『信仰の未来』など著書多数。池田先生と対談集『21世紀の平和と宗教を語る』(『池田大作全集』第141巻所収)を発刊している。
(2018年12月16日 聖教新聞 https://www.seikyoonline.com/)より