池田先生の2度目の“ハーバード講演”から25周年
宗教の枠を超えて人々を結びゆく「崇高な人間主義」の対話を
「平和促進の世界的団体築いた池田SGI会長の貢献は極めて重要」
インタビュー ハーバード大学名誉教授 ヌール・ヤーマン博士
ヤーマン博士(手前の左から2人目)ら、第一級の知性が見守る中、池田先生がハーバード大学で2度目の講演(1993年9月24日、同大学イエンチン・ホールで)
11・18「創価学会創立記念日」特集㊤では、アメリカ・ハーバード大学名誉教授のヌール・ヤーマン博士へのインタビューを掲載する。池田先生は1993年9月24日、「21世紀文明と大乗仏教」と題し、同大学で91年9月に続いて2度目となる講演を行った。ヤーマン博士は、同講演に池田先生を招へいした一人である。インタビューでは、講演の現代的意義や、世界宗教へと飛躍する創価学会への期待等を語ってもらった。(聞き手=木村輝明)
池田先生が2度目の講演を行ったハーバード大学のイエンチン・ホール(2018年11月15日付 聖教新聞)より
――池田SGI会長がハーバード大学で2度目の講演を行ってから、本年で25年となります。当時、会長を招へいしたのは、同大学の文化人類学部長を務めていたヤーマン博士と、応用神学部長だったハービー・コックス博士でした。なぜ、会長を同大学に招かれたのでしょうか?
私は、スリランカでの研究を開始して以来、釈尊について、また釈尊が残した重要なメッセージについて探究してきました。その中で、池田会長がイギリスの歴史家トインビー博士やアメリカの科学者ポーリング博士等と編んだ対談集にたどり着いたのです。
読み深めるうちに、池田会長の哲学には、ハーバード大学を含め、世界中の人々が傾聴すべき「崇高なヒューマニズム(人間主義)」があると思ったのです。(実際に講演を拝聴して)“私の選択は間違っていなかった”と心から喜びました。
会長は伝統的信仰を尊びつつも、それらを超越していく「崇高なヒューマニズム」と私が呼ぶものに共鳴し、人々が伝統的宗教の枠組みを超えゆくことを促してくれる重要なリーダーです。また、偉大な思想を持った世界の識者らとの対話は、この理想に大きく貢献していると思います。
「崇高なヒューマニズム」は、今日の世界にとって極めて重要であり、そこに込められたメッセージは、これまで以上に現代世界と深く関わっています。
なぜか? それは、各地に“ファシズム”が台頭しているからです。私の言うファシズムとは、アイデンティティー(帰属意識)の激しい高まりと、集団への帰属化が被害妄想的な形で表れる、「アイデンティティーを巡る政治」のことです。その帰結が、外国人排斥です。
この“ファシズム”と外国人排斥は、コインの裏表のようなものです。「対話」や「開かれた心」、そして「相互交流の文化」の必要性を、会長が強く語られているのは、こうした思潮に相対するものです。また、「今日の最も危険な動きとは何か」を考える時、私は文明化された自由の伝統の弱体化と、“ファシズム”や外国人排斥の流行であると思います。
――ハーバード大学での2度目の講演の折、池田会長は、同大学に接する地に平和研究機関「池田国際対話センター」を創立しました。また、会長は幼稚園から大学までの創価一貫教育を確立するなど、仏法の人間主義を基調として平和建設に寄与してきました。
池田会長が、世界192カ国・地域に平和の連帯を広げたことは、人類の幸福への重要な貢献であり、驚くべき大偉業です。近年において、このようなことを誰が実現できたでしょうか? 私は、誰も思い浮かびません。
マハトマ・ガンジーのように、平和のために尽くし抜いた偉大な人間は、これまでにも存在しました。しかし、対話と平和を促進するための世界的な団体を創設するまでには至りませんでした。こうした意味で、池田会長の貢献は極めて重要なものです。会長のさらなるご活躍を望んでいます。
私はこれまで、創価大学で記念講演を行い、創価学園も訪問しましたが(2015年10月)、いずれにおいても心温まる交流を体験しました。創価大学での講演後には、学生の代表と懇談しました。彼らは、世界の諸課題に関する数々の質問を投げ掛けてくれました。彼らとのやり取りは、「開かれた心」を体現したものであり、本当に楽しいものでした。
また池田会長が、創価小・中学校の児童・生徒らに励ましを送り続けていることに、私は勇気づけられています。若い人々の精神に「開かれた心」の理念や、他者への共感を確立することは、彼ら、彼女らの未来に大きな違いをもたらします。
――博士は長年にわたり、池田国際対話センターと交流してこられました。同センターを、どのように評価されていますか?
池田国際対話センターは非常に大きな潜在力を秘めて誕生し、今もなお、未来への大きな可能性を持った機関であると思います。
新たな思考を生み出す“巨大な発電機”であるハーバード大学に接する地に、「核兵器廃絶」「平和」「対話」などの重要な概念を探究する同センターが設立されたことは、非常に素晴らしいと思います。
こうした概念に焦点を定めた機関は、ハーバード大学にはありません。素晴らしい取り組みを行う機関は数多く存在しますが、これらの主題に明確に着目したものはないのです。
――本年9月、池田会長が25年にわたってつづってきた小説『新・人間革命』が完結しました。同書には、創価学会が宗門(日蓮正宗)と決別し、世界宗教へと飛躍していく模様が描かれています。地球規模で平和の連帯を広げる学会について、どのように評価されていますか?
私は、宗門との決別については、非常に難しい状況にあったと理解しています。しかし、池田会長は、その苦境を見事に乗り越えられました。(宗門からの)決別は祝福すべき進展であったということです。それによって、会の運動をより普遍的なものに昇華させたからです。
ある団体が、伝統宗教の特定のシンボリズム(信仰の対象やその形式)に対して立ち往生している場合、その団体は、自らの独自性をその他の宗教に対して主張することはできません。
なぜなら全ての宗教は、おのおの独自の優先的シンボリズムを有しているからです。それは極めて強力なものなのです。
「崇高なヒューマニズム」に近接する唯一の方法は、それらを超越していくこと以外にありません。故に、宗門と決別したからこそ、創価学会は輝かしい発展を遂げたと私は思います。もしも創価学会の両肩に“聖なる衣”がかかっていれば、それは大きな重荷となったでしょう。宗門から脱却し、超越していったことが、学会を「崇高なヒューマニズム」へと引き上げていったのです。池田会長は、この流れを生み出したという点で、素晴らしいと思います。
世界に目を向けると、ミャンマー、スリランカ、タイなどで見られるように、僧侶と結び付くことで、まったく予見できない不寛容な方向へと事態が進展する可能性もあるのです。
――本年9月、アメリカSGIは、“生命の尊厳と希望の新時代を開く”との趣旨で、若いメンバーを中心に青年大会「正義の師子・5万」を、全米9会場を結んで開催しました。博士は、未来に希望を持っておられますか? また、創価の青年に、どのようなことを期待されますか?
私は、希望を持っています。それは、いずこにも私たちのような人々がいて、多くの青年が正しい指針を学んでいるからです。そして、「正義の師子」として立ち上がる学会青年部のような若人たちの、並々ならぬ努力があるからです。
若い世代の人にとって大切なのは、ここで話したような世界の諸課題について、日々、考え続けることだと思います。また世界の人々が実際に経験している苦しみの度合いを、認識し続けることが重要だと思います。
私が青年たちに訴えたいこと。それは、外国人への恐怖、他者への恐怖、他文化への恐怖を説き勧める人々を、油断なく監視し続けてほしいということなのです。
ヌール・ヤーマン ハーバード大学名誉教授。トルコ生まれ。英国ケンブリッジ大学で博士号を取得し、1972年からハーバード大学教授。73年から76年まで同大学の中東研究センター所長を務める。インド、スリランカ、イランなどで現地調査を重ねた。宗教と社会の関係などに造詣が深い。
講演の際に創立された池田国際対話センター
池田国際対話センター
「21世紀文明と大乗仏教」と題して行われた池田先生の2度目のハーバード大学講演で、先生は、大乗仏教が21世紀の文明に貢献しうる視点として、「平和創出の源泉」「人間復権の機軸」「万物共生の大地」の3点を提示。対話や言論を徹底して重視してきた仏教の精神性に触れ、「差異へのこだわり」を超えた「開かれた心」による「開かれた対話」こそ、調和と平和の社会を築く原動力であると訴えた。
同講演の折、池田先生が同大学に隣接する地に創立したのが、「池田国際対話センター」(写真、谷川佳樹代表、バージニア・ベンソン所長)である。同センターは、人類が直面する諸課題に対し、仏法の人間主義の視点から解決の方途を探る平和研究機関として設立された。
これまで「文明間の対話」を掲げて、多彩な識者を招き、平和建設のためのシンポジウムやセミナーを活発に開催してきた。また、各分野の専門家らと協力して研究書を出版。それらは現在、315大学、978の講座で採用される。
(2018年11月15日 聖教新聞)より