今から書く話は昨日起きたことである。
昼の12時頃、メシア家のドアをノックする音が聞こえ、ドアを開けてみるとそこにはふたり組の男性が立っていたのだ。どちらも人のよさそうな、けっして悪い印象の人たちではなかった。
私が『誰だ、この人たちは……?』とやや呆然としていると、ふたり組の男性の若いほうが『●●署の者です』といいながら警察手帳を呈示したのである。そう。突然あらわれたふたり組の男性は刑事だったのだ。
私が声を発する前に警察手帳を見せた若い刑事が『メシアさん━━で、いいんですよね?』と確認してきた。それに私が『はあ、そうですが』と答えてから訪ねてきた理由を説明し出した。
どうやらあたりで痴漢事件が続発しているらしく、犯人の可能性のある男の住んでいる家を片っ端からまわっているらしかったのだ。そして昨日、わたくしメシアの番がまわってきたというわけなのである。
それからしばらくして私は外の覆面パトカーに連れ込まれ、30分ほど刑事たちからの質問に答えることになった。
なんと痴漢の犯人は女装をして女性に近づくタイプらしく、『おたくは女装の趣味とかある?』などという質問をされたりした。
最後に正面からと背後からの写真を撮られたのだが、帰り際、若いほうの刑事が私にこのようなことをいってきた。
「くどいかもしれないけど、本当に痴漢やってない?認めるなら今のうちですよ。もしも被害者がおたくの写真を見て『犯人はこの男です』とでもいい出した面倒なことになるけど?」
それに対して私はこういった。
「私の写真を被害者の女性に見せる?どうぞ、いいですよ、私はやってませんから」
それを最後に私はようやく家に戻ることができたのだが、私の胸には得心のいかない不快感とわだかまりでいっぱいだった。
まず若いほうの刑事が最後にいった言葉。
『被害者がおたくの写真を見て「犯人はこの男です」とでもいい出したら面倒なことになるけど?』━━というもの。
だからどうしたというのだろうか?
人間の顔なんてよほど特徴のある顔でない限り、1度見てしばらくたったら忘れてしまうものだ。現にこのときのふたりの刑事の顔を私はもう覚えていない。
1回見ただけで顔を完璧に記憶できる人間など、一部の例外をのぞいて一般的にいるわけがないのだ。よって、たとえ被害者の女性が犯人候補の男の写真を指さして『この男です!犯人はこの男にまちがいありません!!』といったところで、そんなもの犯人であるきめてになどまったくなりはしないのだ。“なんとなくそんなような気がする”というだけの話であり、勘違いである可能性のほうが圧倒的に高いのである。
また、刑事たちは私を外の覆面パトカーに連れ込んで尋問をしたわけなのだが、これはたいへんな失礼で不愉快なことである。
もしも目撃証言があるだとか、証拠VTRがあるだとか、私の指紋や名刺が痴漢現場から見つかっただとか、そうした有無をいわせぬ明確なきめてがあるのならまだしも、明確なきめてらしきものがなにひとつあがっていない段階で覆面パトカーの中に連れ込んで尋問するなどとは論外である。
きめてらしきものがなにひとつない人間が『私はやってません』といっているのだから、『そうですか、わかりました』とでも返事をし、とりあえず被害者に見せるための写真を撮って帰ればいいのではないだろうか……?
目撃証言があるわけでもない、証拠VTRがあるわけでもない、指紋や名刺が痴漢現場から見つかったわけでもない、犯人である可能性が限りなく0に近い段階の人間である私を覆面パトカーの中に連れ込み、失礼極まりない質問を無数にし続けた刑事たち。これで私の無実が証明されたら、彼らはどんな謝罪をしてくれるのだろうか?10万円くらいでも払ってくれるのだろうか?
こうした例は私だけでなく、世の無数の男性たちが経験していると思われる。これからの警察には容疑者をもっともっと絞り込んでから尋問をしてもらいたいものだ。