別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備と支援を求める陳情
今回の9月議会において、館山市民から市議会に対して、
「別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備と支援を求める陳情」
という委員会審査の議案が提出されました。
館山市議会では、陳情は委員会で審議することになっており、担当は文教民生委員会(6名)で私が所属しているところでした。
陳情の前提条件として、私の理解しているところではありますが、離婚後で未成年の子どもがいる場合、
●母親が親権を持つが、養育費が入らない。2割くらいの人しか送金してもらえず、結果として5割くらいの母子家庭が貧困に陥る。
●父親は親権がなく、子どもに会わせてもらえない。3割くらいの人しか子どもと面会交流ができていない。
●その結果、子どもにとって不幸な事態に陥り、健全な成長の妨げとなることがある。
という深刻な問題が昔からずっとあります。もちろん、離婚後も養育費の支払いと十分な面会交流がなされている場合もありますが、それは少ない割合です。また、このパターンは男女逆の場合もあります。
なぜ、このような不幸な事態が生じるのかというと、
◆母親が、父親からの激しいDVや児童虐待を訴える。よって、母親は父親に子どもとの面会を認めない。
◆父親は、DVは軽度だったし反省していると言うか、DVや虐待はでっち上げであり得ないと主張する。子どもと面会ができない以前に、離婚した母親と話すことも困難なので、養育費も滞る。
◆このように言い分が食い違い過ぎて、離婚時点では、親権だけ母親だと決めることしかできず、養育費と面会交流の取り決めがなされない。
というパターンが多いからです。また、男女逆のケースもあります。
この問題は公的な支援が乏しく、主張が食い違いすぎている両者は、弁護士を立てて、裁判での決着を望むことがあります。しかし、裁判というのは実務的には、「自分の非は小さく、相手の非は大きく」という訴訟戦術を取らざるを得ない面があります。勝つためにはやむを得ないところもあるわけですが、結果的には「自分の非は認めないくせに、こちらの小さな欠点をことさら大げさに非難する。これがあいつの本音だったのか。」と両者ともに、怒りが増幅し余計に話はこじれます。その結果、裁判で決まったことをお互いが守らないこともありますし、また別件での紛争を繰り返すこともあります。
こうして、問題がこじれると、お互いに生活は荒れ、場合によっては絶望で自殺に至る場合もあります。もちろん、こんな状態では子どもの健全な成長は困難です。
また、現行では裁判所は親権の決定に当たり、
「別居の場合、子どもとの生活を継続している親を優先する」
傾向が大いにあります。
この現状で離婚可能性のある夫婦に何が起きるかというと、
突然の「子どもの連れ去り」です。
この子どもの連れ去りも、両者の決裂を決定的なものにします。
私が考えるに、この問題の根本的解決は、
片方が親権を持つ現行の「単独親権」ではなく、法改正によって両者が親権を持つ「共同親権(共同親責任)」の制度に切りかえるということです。
この共同親権は欧米では当たり前ですし、今年の7月には上川陽子法務大臣が、法務省として共同親権の検討を開始する、と述べました。
でも、ちょっと考えると、理念的には、この共同親権は当たり前のことではないでしょうか。
結婚していようがいまいが、親は親です。そして、子の親は「両親」に決まっています。
この「最良の親は両親」という理念を間違えているのが、現行の単独親権制度だと思います。根本的な理念が間違っているから、様々な問題が噴出し、解決困難に至っているのではないでしょうか。
もちろん、DVや児童虐待もあるので、共同親権への制度改正がなされる場合は、その対策も十分に講ずるべきです。特に、日本では児童虐待があっても、親権が強すぎて公権力が介入できず悲劇を招くケースが散見されますから、親権を少し弱めるべきだと思います。また、共同親権にすれば離婚前に、養育費と面会交流を取り決めることが義務化されるわけですから、離婚へのハードルが上がります。ですから同時に、夫婦の片方が離婚を望めば離婚できる「破綻主義」を取って、離婚のハードルを少し下げる必要もあるでしょう。
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といった具合で私見を述べさせて頂きましたが、冒頭の
「別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備と支援を求める陳情」
の話に戻ります。
この陳情の要旨は、
1 別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備を、館山市議会から国に求める意見書を出して欲しい。(具体的には、法整備とは国会で超党派議連が検討している「親子断絶防止法案」だと思われる。)
2 面会交流と養育費に関して、公的支援策と相談体制の整備を館山市でも行って欲しい。参考例として兵庫県明石市があるが、同じくらいのことを望む。
というものです。
まず、2の支援については、確かに、公的支援策と相談体制の整備は必要だと思います。ただ、館山市は人口約5万人、明石市は人口約30万人という違いがあること、別居している夫婦が両方とも館山市民ではない場合もあることなどから、もっと広域的、例えば県が事業の実施主体となるという手もあります。とはいえ、市民に身近なのは基礎自治体である市役所ですから、何はともあれ、市で具体的に何ができるかという検討が必要でしょう。
さて、難しいのは、1の親子断絶防止法案です。
陳情書には、国への意見書の文案も参考として添付されていましたが、そこには4点のポイントが記されていました。それを紹介するとともに、私の意見も述べます。
(1)子供の連れ去りの禁止
同意なく子供を連れ去った場合には、子供を速やかに元の場所に戻し、子供の養育について話し合うこと。子供を速やかに元の場所に戻すことに応じない場合には、子供を連れ去られた親に暫定監護権を与えること。
→当然、連れ去りはいけないことではあるが、深刻なDVや虐待があった場合、緊急避難として、子どもを連れて逃げるのもやむを得ないこともある。ただ、親権の決定においては、監護継続性の原則(連れ去った方が有利になってしまう基準)を弱めるべきだと思う。
(2)面会交流の拡充
児童虐待や児童の貧困防止の観点からも、親子が離れて暮らしている場合には、面会交流の権利性を明確化し、頻繁かつ継続的に離れて暮らす親子や親族同士が交流できることとすること。
→これは原則としては、その通りだと思う。
(3)フレンドリーペアレントルール(友好親原則)の導入
主たる養育親の決定はフレンドリーペアレント(他方の親により多くの頻度で子を会わせる親)ルールによるものとすること。
→これが重視され過ぎるのはいけないと思うが、一定の基準とするのは賛成。
(4)養育計画の作成義務化
共同養育計画の作成を離婚時の義務とし、離婚の成立要件とすること。子どもと離れて暮らす親に年間100日以上の面会・養育を義務化すること。養育費を取り決めること。
→養育費と面会交流は離婚の成立要件とするのは賛成。面会の100日以上は目安としては望ましいが、これはケースバイケースでの取り決めも求められる。
ここまでは個人的見解ですが、今日の午前中に開かれた文教民生委員会では、
1について
別居・離婚後の親子の断絶を防止する法整備の必要性についての趣旨に共感します。しかし、子どもへの虐待防止策の強化、配偶者へのDV防止策の充実も関連する検討課題であり、また制度改正については共同親権という方法もあるため、慎重に対応する必要があると考えます。ゆえに、現状においての国への意見書の提出は見送ります。
2について
面会交流と養育費に関して、公的支援策と相談体制の整備の必要性についての趣旨は理解します。よって、市の執行機関に対して、具体的な検討を要望します。
という理由で、「趣旨了承」という結論になりました。
陳情に対する結果は、通常は「了承する・しない」の2択で、今回はレアケースですが、「全部は了承できないが、趣旨は了承できる」という趣旨了承としたわけです。
この問題は、極めて重要なものですが、具体的に考えれば考えるほど、解決が難しいものです。
ブログとしてはかなり長文になりましたが、全国的な議論の参考になればと思い、未熟ながら私見を述べさせて頂きました。