東京都八王子市のスーパーで95年、アルバイトの女子高校生ら3人が射殺された事件は30日、未解決のまま16年を迎える。直後から銃犯罪の撲滅を訴える活動に取り組んできた被害者の同級生らは、事件の風化に直面しながらも「あの日のことを忘れてほしくない」と次世代に伝えようとしている。

 被害者の1人の桜美林高2年、矢吹恵さん(当時17歳)の同級生らでつくる「銃器根絶を考える会」を支えてきた会社員、徳田(旧姓・後藤)恵美さん(32)は、事件を忘れることはない。

 夏休みの朝、徳田さんは事件を伝えるテレビニュースを見て言葉を失い、涙が止まらなくなった。矢吹さんとは高校野球の応援で数日前に会ったばかり。吹奏楽部の練習に登校したが、その日のことはショックのせいか、ほとんど記憶がない。

 2日後、矢吹さん宅を弔問した際、母の恵美子さんから、矢吹さんの字で「えみ」と書かれた包みを渡された。中には、3週間前の修学旅行で訪れた沖縄で矢吹さんが撮影した写真が数枚入っていた。2人を含む仲良し3人が青い海を背景にホテルのバルコニーで笑っていた。

 徳田さんも撮影していたが、矢吹さんとは互いに「2学期になったら渡すね」と約束していた。強く後悔し、「今できることをやろう」と決めた。

 徳田さんは、部活の役職を退いた半年後、「同じような被害者を絶対に出してはいけない」と少しずつ活動を始めていた「考える会」に加わった。メンバーは卒業後も、中高同時開催の文化祭に銃器犯罪や世界の銃器情勢などをまとめたパネルを展示。時効制度や銃刀法に関するニュースも取り上げた。展示には毎年、在校生や保護者ら約200人が訪れ、事件後に生まれた世代も多くなった。

 一方で、メンバーは仕事や家庭の事情で、年月とともに約10人まで半減。でも、徳田さんは「16年前に味わった後悔を二度と繰り返したくない」という思いに背中を押されてきた。

 事件当時の学年主任で「考える会」の発足から顧問として支えてきた同校事務室長の伊藤孝久さん(60)は「身の丈にあった活動だから続いて来たんでしょう。彼らの人生の中にはきっと、矢吹さんがいるんですよ」と話す。

 会のメンバーは30日、同校で追悼礼拝を開く。矢吹さんの冥福を祈り、9月の文化祭に向け、展示内容などを話し合う予定だ。

 ◇八王子スーパー3人射殺事件
 事件は95年7月30日午後9時15分ごろ、東京都八王子市大和田町4のスーパー「ナンペイ大和田店」2階事務所で発生。アルバイト店員の矢吹さんと都立館高2年の前田寛美さん(当時16歳)、パートの稲垣則子さん(当時47歳)の3人が射殺された。金庫をこじ開けようとした形跡があり、警視庁八王子署捜査本部は強盗殺人容疑で捜査している。

 使われた銃はフィリピン製回転式拳銃「スカイヤーズ・ビンガム」。午後9時の閉店前後に店内をのぞき込む男や2台の白い不審な乗用車が目撃されたが、特定されていない。事務所内に残された足跡には溶接作業時などに飛散する鉄粉が付着しており、捜査本部は関連を調べている。

 公訴時効まで約3カ月と迫った10年4月、改正刑事訴訟法施行で殺人罪などの時効が廃止され、捜査が続いている。情報提供は捜査本部(042・646・4240)へ。

毎日新聞 2011年7月29日 12時38分(最終更新 7月29日 13時02分)

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