筋肉質の精悍な体が、千姫の目に飛び込んできた。
幸四郎は、脇差しを抜くと懐紙をくるくると刃の中ほどに巻きつけ、切っ先を腹に当てた。
「幸四郎、死んではなりませぬ」
「姫の前で、肌を晒すなど、許されぬこと、幸四郎は、生きておられませぬ」
「なりませぬ」
「何とぞ、切腹、お許しを」
「なりませぬ。幸四郎には、大事な仕事を申しつけます」
「大事な仕事?」
「千は、人質の身、いざという時は、自害して果てます。その時は、幸四郎に教えられたように、切腹して果てたい。見ているだけでは、よう解らぬ。そばに来て、腹の切り方、教えてたもれ」
「そ、そのようなこと・・」
「人質に切腹の作法を教えるのは、大切なお役目、千の願いじゃ。早ようこちらへ」
「では、ごめん」
幸四郎も、覚悟を決めた。もろ肌脱いだまま、千姫の左脇に、寄り添った。
「千も幸四郎と、同じ姿になります」
そう言うと千姫は、ゆっくりと、襦袢の前を寛げ、もろ肌を現した。