ゲームの売上の最大化
7/28に行われた、日本デジタルゲーム学会2012夏季研究発表大会のアフタヌーンセッションに行われた、芝浦工業大学准教授小山友介経済学博士による「ソーシャルゲームの行動経済学的解釈」講演の中で、1つのゲームタイトルから最大の売上を上げるための方法に関する説明が、とても分かりやすく納得できたので、さらに簡単に皆さんに紹介します。
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◆ ゲームの商品特性
単純な価格競争では、同じ商品であれば、値段が高いものは売れず、値段が安いものは売れますがゲームは値段を安くしたから売れるというものではありません。ゲームショップのワゴンには、理由は様々ですが、たとえタダだとしても誰も手に取らない「ワゴンの肥やし」が存在します。
逆に「人気タイトルの続編」や「好きなゲーム会社の作品」という理由で、ブランドに対するロイヤリティーがあり、少々高くても買ってくれるという、経済学的に言えば「市場支配力」を持っているタイトルもあります。
そんな中でゲームはどうやって儲ければいいのでしょうか?
・新規ユーザーを増やす
・客単価を上げる
という2つが有効な手段ですが、開発費が上がったりして宣伝広告費の割合が減っている今、新規ユーザーを増やすのはなかなか難しく、客単価を上げていくのが最も効果的な方法になります。
◆ ゲームの需要関数
あるゲームタイトルが、どのくらいの需要を持っているかは、次のようなモデル図で表すことができます。ただし1人1個だけの購入という前提での話です。
縦軸をゲームの値段、横軸をゲームを購入する人数とすると、縦軸上の、そのゲームを買うために一番多くのお金を払える人が払える金額と、横軸上の、タダだったらそのゲームを貰ってくれる人数との間に線を引き、できた三角形がそのゲームを購入したい需要の大きさになります。実際には、1人で複数購入する人もいるので、こんなにきれいな三角形にはなりませんが、ここは分かりやすく示します。
◆ パッケージ販売の売上
ある価格でゲームを販売した場合、その金額なら買うという人数だけゲームは売れます。
これがパッケージ販売をした場合のモデル図になります。ピンクの四角い部分が、この値段で販売した場合の売上になります。黄色のエリアが、もっと値段が高かったとしても買ってくれた遺失売上、緑のエリアが、もっと値段が安ければ買ってくれた遺失売上になります。パッケージ販売は、需要の多くを遺失してしまう販売方法であることがわかります。
◆ パッケージの価格差別戦略
では黄色いエリアや緑のエリアを売上とするにはどうすればいいのか? それは同じゲームで価格が異なるパッケージを作る価格差別を行うことで可能になります。黄色いエリアから売上を得る方法としてポピュラーなのが「初回限定版」などのプレミアムパッケージです。
限定版の価格でも購入する人は限定版を購入し、限定版は高いけれども通常版の価格なら購入する人は通常版を購入します。これにより高い価格で遺失していた売上の一部を得ることができます。
緑のエリアから売上を得る方法で代表的なのは「ベスト版」などの廉価パッケージです。
廉価版は、通常版の売上がある程度鎮静化したところで出すのが効果的ですが、遺失売上の獲得以外にも、中古市場に流れる機会損失を防ぐ働きもあります。ただし、ワゴン行きになるようなゲームなど、中古市場で安値で取引されるものでは意味がありません。
限定版と同じく、廉価版も遺失売上の一部を得ることができますが、遺失売上を全て無くすことは不可能です。
◆ オンラインコンテンツによる戦略
オンラインで追加コンテンツが販売できるようになって、パッケージを購入された方に、さらに追加でシナリオなどを販売し、高い購入意欲のある黄色いエリアから売上を得ることができます。
これは限定版と同じような図になりますが、追加コンテンツの価格に違いを持たせた複数のコンテンツを用意することで、さらに細かく遺失売上を得ることができます。
こうすると遺失売上の割合が減りますが、廉価版で得た遺失売上も獲得するためには、パッケージ自体の値段を安くして、単価の安い追加コンテンツを多く出すことが効果的であるとわかります。
◆ アイテム課金販売の戦略
ゲームコンテンツ本体の値段を無料にして、細かな価格設定の追加コンテンツを多数用意するのが、いわゆる「アイテム課金」という方法です。
決済の手間の関係などから、最少課金単位が1円にならないので、わずかながら遺失してしまう売上はありますが、概ねゲームの需要の全てを売上とできることになります。ただしゲームの基本部分は無料で遊べるため、人数の設定がプレイヤー総数ではなく、それに課金転換率(プレイヤーの中で課金している人の割合)を掛けた数になります。
それでも単純なパッケージ販売と比べると、大きな売上が期待できるのです。
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ゲーム販売の方向の変化は、ゲーム制作が完成に向かって収束するものではなく、サービスを継続するために作り続けるようにシフトさせています。そんな中でも、ゲームメカニクスの面白さで支持されるゲームが育っているのも事実です。ゲームは常に技術の進歩に従ってパラダイムシフトしてきましたが、ビジネスとして成り立たせるためには、手間が掛からず、余計に払うことのない優れた課金システムが必須なんでしょうね。