・パナソニックが「スマート街灯」を世界展開、防犯カメラやWi-Fi基地局搭載(日刊工業新聞 2017年11月7日)



(上)防犯・見守り用カメラを搭載した多機能街灯が徐々に増えている(神奈川県藤沢市のスマートタウン)

※来年から欧州、20年には日本でも

パナソニックは、防犯カメラや無線LANのWi―Fi(ワイファイ)基地局などを装備した多機能街灯システムを国内外で拡販する。2018年春に欧州で提供し、20年には日本でも商用化する。データ通信に電力線を使うため、既存の街灯に通信設備を導入せずに済む。IoT(モノのインターネット)技術を使った“スマート社会”の実現に向け、25年に世界で1億4000万本に上るとされる多機能街灯の需要を開拓する。

パナソニックは多機能街灯システムのデータ通信に、電力線を使った電力線搬送通信(PLC)「HD―PLC」を採用する。PLCを高速化する独自技術で、コンセントに差し込むだけで通信が可能。混線しにくく、特殊な変調信号を使うためデータを盗まれにくい。

同社はまず、複数の多機能街灯を組み込んだシステムを欧州に投入する。Wi―Fiスポットになるほか、周囲に人がいない時は明るさを落とし消費電力を抑える。また機器の故障を管理センターに通知する機能があり、保守費用を減らせる。一方、日本では18年3月までに大阪府門真市や佐賀県鳥栖市にある同社事業所で、カメラなどを搭載した街灯の実証試験に入る。

日本国内では電波法の規制からPLCの利用は屋内などに限られており、屋外での利用は難しい。ただ日本政府は技術革新を後押しするため、18年にも一時的に規制を取り除く方針を打ち出しており、PLCの利用拡大に期待が高まる。まず社内の実証試験を進め、技術課題などを解決する。

中国では将来の事業化を見据え、日本のHD―PLC推進団体と大気汚染を測定する街灯の実証試験を始めた。海外でもスマートな街灯に注目が集まる。


・5G時代に活躍する“スマート街路灯”とは?(日刊工業新聞2018年10月19日)



(上)スマート街路灯

※NECが2020年頃に商用化へ

NECは第5世代通信(5G)時代に向けて、アンテナや通信機能を搭載したタワー型の本体に、カメラやデジタルサイネージ(電子掲示板)、スピーカーなどを装備した多機能型の「スマート街路灯=写真」を試作開発した。街中に設置してデータを収集し、人工知能(AI)による分析を利便性や安全対策に生かしたり、災害時の情報配信などに役立てたりできる。2020年頃をめどに商用化を目指す。

NECがスマート街路灯をコンセプトとして打ち出すのは初めて。5Gを実現する手段に加え、社会インフラに情報通信技術(ICT)を組み込んだ「セーファーシティ(安心・安全な都市)」を実現するパーツとして提案する。

5Gは基地局のカバーエリアが狭く、高速・大容量の特徴を生かすには100―300メートル程度のセル単位でのアンテナ設置が求められる。

本格普及期には膨大な数の基地局やアンテナが必要となることから、街の景観に自然に溶け込むようなデザインと便利な機能をスマート街路灯に盛り込んでいく。

ネットワークカメラの映像や各種センサーデータは監視センターで収集、解析し、交通量や歩行者量に応じて、その場の状況に応じた案内や誘導をサイネージやスピーカー経由で行うことが可能。

災害時には街路灯同士を連携して独立したネットワークを形成。浸水センサーや震度センサーを活用した現場の情報収集や避難経路の表示による誘導など地域のサービスステーションとしての活用も想定する。

スタジアムでの利用は20年東京五輪・パラリンピックでの採用を目標とし、その先駆けとして19年開催のラグビーワールドカップでの実証も提案する。商店街では来訪者の動線に加え、映像や音声の解析により、トラブルの未然防止にも生かせる。


・NEC、杉並区に「スマート街路灯」設置 街を照らしつつ、センサーで川の水位をチェック 災害対応を迅速化(ITmedia NEWS 2019年07月24日)

※NECは7月24日、東京都杉並区の街路灯に無線通信機や各種センサーを取り付けてIoT化し、区内を流れる善福寺川を観測する実証実験を行うと発表した。水位センサーなどが取得したデータを杉並区区役所に転送し、異常時にはアラートを出すことで、災害対応の迅速化を目指す。

実験では、区内12カ所の街路灯に、通信に対応した照明、水位センサー、カメラ、マルチセンサー(照度・湿度・温度・振動・傾斜)などを設置。8~12月にかけて運用し、有用性を検証する。

IoT化によって、水位観測の他、遠隔地から照度を変更したり、故障や照明切れを検知したり、複数の街路灯をネットワーク化して地域一帯の明るさを調節したり――といったことも可能になるため、街路灯の管理効率化にもつながるとしている。

サイネージを使えば地域活性化も

NECは街路灯をIoT化する「スマート街路灯」事業を推進しており、各種センサーに加え、デジタルサイネージを備えたライトを本社ビル敷地内などに設置している。杉並区での実証実験では使用しないが、サイネージに近隣店舗の広告などを表示すれば、地域活性化なども期待できるとしている。


・日本の防犯カメラ、500万台に迫る 「見られている」が人を変える(日経ビジネス 2018年11月13日)

※英ニューカッスル大学の行動生物学者が実施した有名な心理実験がある。大学の共有スペースに誰でも利用できるコーヒーポットを設置した。飲みたい人は隣に置いてある箱に代金を自主的に入れる。ポットを管理する人はその場にいないので、代金を払わない者もいる。だが、ポットの上に「目の写真」を貼ると、支払い率が3倍近くに跳ね上がった。「見られている」と意識するだけで、人は品行方正になると研究者は結論付けた。

今、日本中で「目」が増殖している。正確な統計はないが、本誌は様々な資料を基に国内にある防犯カメラの総数が500万台近くに達していると推計した。

綜合警備保障(ALSOK)が実施した意識調査では、「10年前に比べて、防犯カメラが増えたと思いますか」という問いに、「とても増えたと思う」「やや増えたと思う」と回答した人は合わせて75%に達した。日常的に防犯カメラの増加を感じている人が大半だ。

歌舞伎町に死角なし、犯罪半減

犯罪捜査の現場では、防犯カメラの映像が重要な捜査資料になっている。今夏に発生した大阪府警富田林署の容疑者逃走事件では、府警は容疑者が映っている映像を公開し、広く情報の提供を求めた。捜査員は犯行現場の周辺を地道に歩き、防犯カメラを設置している商店街や商業施設、民家などから任意で映像の提出を受け、内容を確認している。

警察自身が運用する防犯カメラもある。犯罪の抑止に有効だとして、2000年代に入ってから設置が本格的に始まった。例えば日本有数の歓楽街、新宿・歌舞伎町では現在、警視庁が55台のカメラを運用する。映像は東京都江東区にある警視庁の生活安全カメラセンターに送られ、24時間体制で「不夜城」を見張っている。

歌舞伎町商店街振興組合の城克事務局長は、「町にほぼ死角はない。すべてが見えているので屋外では問題を起こせない」と語る。

設置が始まったばかりの15年程前、歌舞伎町で年間2000件あった刑法犯の認知件数は、違法風俗店などの摘発強化と相まって、今では半分以下の水準で推移する。城氏は「暴力団同士のトラブルがあっても、仲間の組員が応援に駆けつけるより先に、映像で異変を察知した警官が到着する。防犯カメラの効果だ」と話す。

公園や住宅街にもカメラ、8割が「安心」

警視庁生活安全カメラセンターでは歌舞伎町を含め、渋谷、六本木など6地区で合計222台の防犯カメラを運用する。同センターの宮入忠文所長は、「住民の安心につながっている」と語る。

もっとも、すべての防犯カメラが当初の計画通りに稼働しているわけではない。ある県警の幹部は、「繁華街に防犯カメラを設置しても、保守の予算が付かない。現在では多くのカメラが故障したまま放置されている。周辺で事件が発生しても、解決に向けて頼りにならない」と嘆く。国民の税金が無駄遣いされている、お寒い状況だ。

数の面でも警察が頼りにするのは、やはり商店街など民間が設置している防犯カメラである。

警視庁の宮入氏は、「商店街や町内会などに、街頭防犯カメラの設置・運用をお願いしている。その数は増え続けており、9月末に都内で1万8000台に達した」という。

全国の自治体の多くも、町内会などが設置する防犯カメラに補助金を出す。その1つである東京都豊島区・防災危機管理課の担当者は、「区内の繁華街はほぼ網羅した。今後は住宅街や公園にもカメラの設置を促していく」という。

三菱電機ビルテクノサービスが実施した意識調査では、「様々な場面で防犯カメラがついていると安心するか」という問いに、8割が「安心する」と回答した。防犯カメラによって見守られ、犯罪が抑止される安心感があるようだ。

だが無意識のうちに、自分自身の言動も抑制される。

住宅街の路上にタバコをポイ捨てしようとしたとき、公園の隅で用を足そうとしたとき……。周囲に誰もいなくても、「目」が視線を向けている。独りになれる場所は減ってきた。

※ブログ主注:日本も中国も監視カメラ網の構築が始まったのが2000年代前半。偶然ではない。世界支配者による各国に対する共通の計画の指令があるのだろう。


・【香港デモ】中国政府の監視を逃れるため、香港人が徹底している「6つのこと」に震える! もうすぐ日本もこうなる!(TOCANA 2019年9月4日)

※日本政府はアメリカ合衆国の要請にしたがって、国内のネットワーク機器から中国製品を排除しようと動いている。あくまで情報筋によればという話だ。中国の通信機器は利用者の行動を驚くべき精度で把握できる性能をもっている。アメリカ政府が疑っているのは、その監視機能が中国政府だけが利用できるように設計されているのではないかという点だ。

具体的にどんなレベルなのか話をしよう。

今年6月、香港で「逃亡犯条例」改正案に反対する市民200万人が大規模なデモを行った。問題はそのときの香港のデモのときの参加者の注意ぶりである。参加者の多くが心がけていたことがある。

1 マスクをして帽子をかぶる
2 写真を撮る人をみつけたらたとえそれが海外のジャーナリストであっても猛抗議をして画像を削除させる
3 スマホの電源を切り、参加者同士は手話でやりとりする
4 主催者幹部はロシア語の暗号化アプリで連絡をとりあう
5 自宅を出てデモに向かう際、地下鉄に乗る場合にはオクトパス(日本のSUICAなどに相当)は使わず現金で切符を買う
6 デモからの帰り道では手前の駅で降りて飲食店で時間をつぶす

これを200万人規模の香港人が徹底して行っていた。理由はそうしないと中国本土の監視網にひっかかり、自分がデモに参加していたことが記録に残ってしまうからだ。実際、デモの途中で警官隊と衝突して負傷した参加者は、病院で治療を受けた直後に逮捕されている。

そして実は今回の香港市民の対策も、中国本土の監視ネットワークの性能が上回っているかもしれないという情報がある。

香港の街中にはりめぐらされた監視カメラの映像はそのまま本土の監視システムに情報が送られている。詳細の議論は省いて、ここではそうなっているとして話を進めよう。その監視を行っているのは現在では共産党員ではなく人工知能である。香港だけでなく中国全体におよぶ膨大な監視カメラの画像データを巨大な人工知能が学習しているのだ。

さて、ここで大切なポイントがある。人工知能が強大化するためにはアルゴリズムも重要だが、育つ環境の方がさらに重要である。その点、個人情報の制限をまったく受けない中国政府の監視ネットワークは、画像情報から人物の行動を見分ける人工知能が育つためのビッグデータの情報源としては理想的な素材になっている。

そして、人間の行動を監視する人工知能は人間よりも高性能に育つことになる。たとえば人間は他人を見分けるのに顔の特徴的な情報だけしか使うことができない。だから、マスクをつけたりサングラスで変装したりするだけで追跡を逃れることができる。しかし、人工知能は人間とは違う情報で人物を識別する。

具体的にいうと、後ろ姿からでも人工知能は本人を特定することができる。その理由は人間の歩き方にひとりひとり個性的な特徴があるからだ。

そうやって群集の中から特定の人物を見つけ出す学習ばかりを繰り返してきた中国の人工知能は、たとえばたったひとりのテロリストの居場所を、上海の街の無数の監視カメラから、わずかな時間の間に特定するレベルにまで性能が向上している。

「たぶん、今回のデモの指導者が当日どこで何をしていたか。その正体が誰なのか。すでに人工知能は特定していると思いますよ」

というのが、中国本土のハイテク技術に詳しい情報源からの話である。

さて日本政府の対応だが、本音では警視庁や公安警察はAIによる国民監視機能まで提供してくれるのであれば国内のネットワーク機器は中国製品で固めたいと思っているらしい。しかし中国政府にはその提供の意思はないようだ。


・香港デモ 中国の監視を避ける、新たな通信手段が広がる(BBC 2019年9月4日)

※香港では政府に抗議する市民たちのデモが3カ月にわたって続いている

香港の反政府デモ参加者たちの間で、新たな「通信手段」が広がっている。中国当局の監視の目をかいくぐるため、インターネットを使わないのが特徴だ。

香港では、中国のソーシャルメディア「微信(ウィーチャット)」でメールやメッセージをやりとりする人が少なくない。

ただ、ウィーチャットでの交信は、すべて中国当局に監視されているとされる。

ブルートゥースで接続

監視を避けたい人々の間で人気が高まっているのが、スマートフォン用アプリ「Bridgefy(ブリッジファイ)」だ。

インターネットを利用せず、ブルートゥース(Bluetooth)で携帯端末をつないでチャットができる。携帯同士が100メートル以内にあれば、接続可能だという。離れた場所にいる人同士でも、間にいる人々の端末を次々と経由して、メッセージを交換することができる。

ここ2カ月のダウンロード数は、それまでの40倍近くに急増していると、調査会社アプトピアは話す。

香港では、インターネットが切断された場合や、「グレート・ファイアウォール」と呼ばれる中国本土の監視システムの対象となることへの対応策として、市民の間で広がっているとみられる。

野外イベント向けに開発

このアプリは、米サンフランシスコの創業間もない会社が開発した。もともとは、大規模な音楽イベントやスポーツ大会など、ワイファイなどのネットワークがつながりにくい場所で使用されてきたという。

アプリを開発した会社の共同設立者、ホルヘ・リオス氏は、香港で人気が急上昇していることについて、「人々はインターネットに頼らずに組織化と安全確保を図るために使っている」と、米誌フォーブスに語っている。

ブリッジファイと似た「ファイアチャット」というアプリも、香港や台湾、イラン、イラクで使われてきた。

完全に安全ではない?

ただ、こうしたアプリは完全に監視の網をくぐり抜けられるわけではないと指摘する専門家もいる。

英サリー大学のアラン・ウッドワード教授は、「どんなピア・トゥ・ピア(端末同士)のネットワークにおいても、知識がある人なら、その中心部分にいれば、どの機器がどの機器と話をしているのかわかる。そのメタデータ(データに付加されたデータ)からは、誰がチャットに加わっていたかを識別できる」と話す。

また、ブルートゥースは安全性が非常に高いわけではないと指摘。当局にとって、ブルートゥースでつながった端末同士の会話を盗み聞きするのは簡単ではないにしろ、不可能ではないとみている。


・AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?(Newsweek 日本語版 2019年9月10日)

高口康太(ジャーナリスト)



(上)監視カメラ向けAIを開発する商湯科技(センスタイム)の製品デモには、驚くほど詳細な情報が表示されている 

※今年7月、私は江蘇省蘇州市の平江路を歩いていた。運河沿いに走る小道だ。歴史地区に指定されており、「空に天国あらば、地に蘇州・杭州あり」とうたわれた美しい街の姿を残している。

その風情ある街並みの中で似つかわしくない物が目に入る。監視カメラだ。円筒形をしたもの、球状のものなど数種類あるが、白い金属で覆われた姿はひときわ異様さが目立つ。しかも数十メートルおきに設置されているのだから、嫌でも目に付く。

常に監視されていることに居心地の悪さは禁じ得なかったが、そうした思いを抱いているのはごった返す観光客の中でも私だけのようだ。道行く人々は誰もがまるでカメラの存在など目に入っていないかのようだった。

カメラの真下ではしゃぐ子供たち、愛を語り合うカップル、記念写真を撮影する家族連れ。カメラの多さよりも、それを全く気にも留めない人々の姿のほうが驚きと言っていいかもしれない。

これは蘇州だけの光景ではない。都市部に限れば中国全土に共通している。中国はいつから「監視カメラ大国」になったのか。それは社会に何をもたらしたのか。目的はどこにあり、人々はどのように感じているのか。

中国で国家による監視カメラ網の構築が始まったのは2005年だ。先行して一部都市に導入を指示する「科技強警モデル都市」、その経験を全土に広める「平安建設」、各自治体へ監視カメラ網構築を指示する「3111工程」といった政策が同年に打ち出された。

治安を目的としたこの監視カメラ網構築は後に「天網工程」と呼ばれるようになるが、外国メディアは映画『ターミネーター』で人類を滅亡の危機に追い込んだ人工知能(AI)「スカイネット」の英訳を付けている。

12年には警察監視カメラ映像のネットワーク化が始まった。監視カメラは強力な証拠能力を持つが、その映像が分散保管されていれば必要な情報を集めるのに時間がかかる。ネットワーク化すれば必要な映像をすぐ入手できるほか、リアルタイムでの監視も可能だ。

孫をあやしながら自宅で監視

さらに2010年代後半からはスマート化を推進。画像認識技術により映像に何が映っているかを検索できるようにするもので、例えば「青い服を着た中年男性」というキーワードで、膨大な映像から候補を選ぶことができる。

また、顔認証技術によるデータベースとの照合も行われ、指名手配犯がカメラに写ればアラームを鳴らすなど、個人の特定も可能だ。これにより従来は人の目に頼っていた画像チェックの自動化が可能になったというわけだ。
 
監視カメラのスマート化に必要な高度なAI技術を開発するのは、大学発のスタートアップだ。業界を牽引するのは商湯科技(センスタイム)と嚝視科技(メグビー)の2社。センスタイムは香港中文大学の研究所を前身に14年に創設され、メグビーは北京の名門・清華大学の卒業生が11年に創業した。いずれも世界的なコンテストで優勝するなどの実績を残している。

ただし、中国の技術が他国を圧倒しているわけではない。要素(基本)技術の開発では他国と同程度でも、社会実装(開発された技術の実用化)のスピードが極めて速いというのが実態に近い。社会実装が速ければ、それだけ改善点も早く見つかり、技術改善のペースも上がっていく。

こうして進化を続けるスマート監視カメラをさらに広範囲に敷設する計画が始まっている。15年からスタートした「雪亮工程」だ。天網工程が主に都市部をカバーするものだったのに対し、農村部も含めた重点監視地域の全てに2020年までに監視カメラを設置する計画だ。

18年2月13日付「法制日報」紙(電子版)に、雪亮工程がどのように機能しているかを示す、山東省の宋河村という農村に住む治安ボランティアの例が紹介されている。

尹(ユン)は......孫をあやしながら、テレビに映し出された「平邑スマート社区」システムの映像を通じて、村の状況を見守っていた。同システムの「私の治安」機能では同時に6台分の監視カメラ映像を表示させることができる。まさに「探頭站崗、一鍵巡邏」(部屋の中から警備に就き、クリック一つで巡回するという意の警察の標語)を実現しているわけだ。17年のある日、尹は映像を見ていると、ナンバープレートを付けていない車が村内を走り回っていることに気が付いた。やがて車から人が降りてきて、ある家の鍵をこじ開けようとしているではないか。尹はすぐにテレビのリモコンに付いている「ワンクリック通報」ボタンを押した。連絡を受けた宋河村雪亮工程担当者はただちに巡視員に連絡。警官と共に現地に向かい、泥棒を逮捕した。

雪亮工程では農村部で監視カメラ網を整備し、映像データを県・市・村という3層の自治体で共有することが主眼とされているが、宋河村ではそれに加えて一般の村民が監視に加わる機能まで備えているわけだ。

監視カメラでネコババも減る

雪亮工程と並ぶもう1つの最新プロジェクトが「一体化連合作戦プラットフォーム」だ。地域によって機能は異なるが、警察や消防など治安関連の全情報を集約し、どこに警官や消防隊員がいるか、どこに監視カメラがあるかなどをデジタル地図上に表示する。指揮本部のスクリーン、管理者のパソコン、パトカーなどの車載設備、警官や消防隊員のモバイル端末で同じ情報を閲覧できるようにするものだ。

こうしたシステムを開発、販売しているソフトウエア会社のパンフレットを見ると、携帯電話の情報から該当地域にいる住民の情報を統一的に表示できる機能を盛り込んでいるものもある。縦割り行政を打破する試みだ。

雪亮工程は建設ラッシュが続いている。BBCの報道によると、2020年には民間も含めて約6億台の監視カメラが中国に設置される見通しだという。

こうした飽くなき監視カメラの活用、監視社会化はいったい何をもたらしたのか。前述の「法制日報」記事は、四川省中部にある稲花村の魯良洪(ルー・リアンホン)書記の言葉を紹介している。

「昨年の雪亮工程の実施から、窃盗事件、野焼き、ゴミの不法投棄といった違法行為は一切起きていない。不道徳行為の取り締まりにも有効だ」

中国共産党の力で犯罪が一掃されたという、いかにもプロパガンダ的な言葉だが、そこまで極端ではなくとも監視カメラの「恩恵」を感じている人は多い。卑近な例で言うと、落とし物、忘れ物だ。ネコババしても監視カメラに突き止められてしまうため、警察に届けられるケースが増えた。

また、監視カメラを導入した都市では、路上駐車や無理な追い越し、信号無視、速度超過などの交通違反も明らかに減っている。警官が見張っていないときは好き放題だったのが、常に監視されることでお行儀よくなったわけだ。

落とし物をネコババしない、交通ルールを守る──こうした社会のルールは通常いかに遵守されるのか。法律で罰則が定められているが、実のところこうした軽微な罪は摘発される確率が低い。実際には法律よりも「悪いことだからしてはならない」と自らを律する規範が占める比率のほうが大きいだろう。

中国でも学校で、あるいは団地に張り出された壁新聞で、啓蒙活動を繰り広げ、人々に規範を植え付けようとしてきたが、効果があったとは言えない。日本を旅行した中国人が口々に言うのが、日本人の礼儀正しさだ。一人一人が規範を内面化し、誰も見ていないような状況でもルールを守る社会だと感嘆している。

もっとも、中国でも一貫して規範が機能していなかったわけではない。かつて日本では「文化大革命時代の中国は泥棒のいない国」と言われていた。このイメージは多分に中国のプロパガンダに影響されていることは否めないが、当時を知る中国人に話を聞いても、「改革開放前のほうが社会の秩序はあった」と話す人が多い。

文革初期は紅衛兵が跋扈(ばっこ)する混沌とした世界だったが、後期は毛沢東を象徴とする強力なイデオロギー統治と密告を軸としたアナログな監視社会で、むしろ社会秩序があったという。改革開放によって、違法行為に手を染めてでも稼いだ者が偉い世の中になったこと、格差や人口流動が拡大したことで中国は社会秩序が不安定になった。

憂慮すべきは「普通」の基準

この混乱を収めたのが2000年代に始まった監視システムだろう。「毛沢東からデジタル監視へ」の転換だ。このように考えたとき、「監視社会・中国」に対する一般的なイメージには大きな問題があることに気付かされる。

すなわち、「中国共産党による一党支配の維持」こそがデジタル技術を動員した監視カメラ網の目的と見なされることが多いが、むしろ人々をお行儀よくさせる、安心をもたらすことに焦点が当てられているのだ。

逆に人権派弁護士や活動家の取り締まりなど、支配の維持に関する問題については、住宅の周りを警備員が常に見張り続けるといった、昔ながらの人力に頼った監視や軟禁が継続しており、デジタル技術によって代替されてはいない。

規範の代わりにデジタル技術で人々をお行儀よくさせる。そんな社会は息苦しいものではないのだろうか。

「もう慣れてしまったので、そもそも監視カメラがあることに気が付かなくなった。自分が悪いことをしなければ特に不都合もないし......。悪い人にとっては困りものだろうけど」

蘇州で製薬関連会社に勤める劉(30代、女性、仮名)の言葉だ。「デジタルディストピア」の圧政に苦しむ中国人民を描く外国メディアの報道とは全く違う感想がそこにはあった。

私たちの常識から見れば、中国の監視社会化はとてつもなく恐ろしいものに思える。だが、そこで暮らしている人々に「治安がよくなって、人々のマナーもよくなる。普通の人は困ることはない。それで何の問題があるのか?」と聞き返されたとき、果たして反論できるだろうか。

憂慮すべきは、「普通の人」と「普通ではない人」を分ける基準が独裁政権の手に委ねられている点だろう。この問題が突出しているのは、新疆ウイグル自治区やチベット自治区など独立運動が起こってきた少数民族地域だ。

中国の大多数の地域では監視のターゲットとされる「普通ではない人」はごく少数にとどまるのに対し、これらの地域では多数の住民が厳しい取り締まりと監視によるストレスフルな日々を送り、再教育キャンプには100万人超が収容されているという。

あるいは香港。デモ参加者たちは監視カメラ付きの街灯を引きずり倒した。「普通ではない人たち」の監視システムが香港でも運用されているとの恐れからだ。

監視カメラにより社会秩序を改善させる中国の取り組みからは、正と負の双方の側面が見えてくる。


・顔で改札を通る時代へ 中国の地下鉄駅に顔認識・決済システム続々(Forbes 2019年9月28日)

河 鐘基(ハ・ジョンギ)

※「ハードウェアのシリコンバレー」と呼ばれる深センでは、まず11号線の18駅で、利用料が無料となっている60歳以上の利用者を対象にシステムを稼働開始した。いわゆる「顔認識シルバーパス」といったところだろうか。今後は、除隊軍人など利用料を免除されている層にまで利用を拡大。対象者に関しては乗車券の提示などは必要なく、顔認識で自動的に改札口を通過できるようになるという。

なお、同システムは深セン市の地下鉄とテンセントが共同開発したものだ。テンセントは中国社会の決済インフラとなって久しい「WeChat Pay」の運営元だが、今後、地下鉄の利用が決済システムと連動していくことは想像に難くないだろう。

これとは別に、深センでは3月から福田駅にて、乗車券や交通カードの代わりに自分の顔を利用して地下鉄を乗り降りできるサービスを試験実施している。出入口に設置されたタブレットのようなスクリーンに自分の顔を近づけると、連携したアカウントから交通費が自動的に決済される仕組みだ。

なお、地下鉄における顔認識決済を使用するためには、利用客が自身の顔を事前に登録。決済手段と連携しなければならない。

現在、深セン市以外にも、山東省の省都である済南市、広東省の省都・広州市など、中国のおよそ10の都市でAIシステムが地下鉄駅に導入されているという。済南市では、4月から事前登録を済ませた約500人の地下鉄利用客を対象に、顔認識技術を活用した決済システムを稼動。広州市では、9月からふたつの地下鉄駅で顔認識技術を活用した決済システムを試験的に運用している。

その他にも、上海市、山東省・青島市、江蘇省・南京市、広西チワン族自治区・南寧市などでも、AI技術を使った地下鉄駅決済システムのモデル事業が実施されているという。

中国ではWeChat Payなど、QRキャッシュレス決済が生活の隅々まで浸透して久しいが、数年間から顔認識による決済が普及していくとの見立てが現地関係者の中で強かった。ここにきて、地下鉄というインフラでの導入が加速している形だ。

日本の場合、空港など一部の施設では利便性向上のために顔認識システムが導入開始されている。しかし、電車や地下鉄に関してはSuicaなど非接触型のICの利便性が高く、顔認識システムへの代替は可能性が低いだろう。とはいえ、中国での先行事例をベースに、顔認識システム導入のメリット・デメリットを見極めていくことは有用となるかもしれない。

余談だが、中国現地の関係者からは、中国社会の決済インフラとなったWeChat Payに規制が入るかもしれないという”噂話”もあった。入金やチャージを行う銀行側のメリットが担保できないという理由からだ。

WeChat PayやAlipayなどメジャー決済アプリなども併用できる、新たな銀行主導のアプリが登場する可能性もあるとする。いずれにせよ、日本で大きく注目される中国のキャッシュレス事情だが、その内情も刻一刻と変化を遂げていきそうだ。


・「中国だけ」ではない 世界に広がる監視AIテクノロジー(Forbes 2019年9月23日)

河 鐘基(ハ・ジョンギ)

※米財団・カーネギー国際平和基金(Carnegie Endowment for International Peace)が、少なくとも75の国が顔認識など人工知能(AI)テクノロジーを監視に積極的に使用しているとのレポート「The Global Expansion of AI Surveillance」を発表した。

AI監視システムと言えば、中国のそれが世界的に広く知られている。ただ基金側は米国や日本、フランス、英国、イスラエルなど民主主義国家も例に漏れないとしている。

日本のNEC、米国のIBM、Palantir、Ciscoなどの企業は、AI監視テクノロジーを提供する主要なサプライヤーだと指摘されている。ただレポートは、合法・違法、もしくは有害なデジタル監視とそうでないものを区別しておらず、技術の広がりについてのみ言及している。

またAI監視テクノロジーの範疇に、「スマートシティ/セーフシティプラットフォーム」(56か国)、「顔認識システム」(64か国)、「スマート警備」(52か国)なども含んでいる点は留意しておきたい。

レポートではまた、AI監視テクノロジーのサプライヤーとして中国企業が有力としつつも、米国企業の関連技術が供給されている国の数が32か国にのぼるという点も指摘している。加えて、「先進的な民主主義国家の51%がAI監視システムを展開している」とも調査結果を報告。

それらの国々が技術を悪用しているという訳ではないとしつつ、抑圧的な目的で使用されないように政府のガバナンスの質が重要だと結論づけている。

余談となるが、米国や英国では顔だけでなく、武器の携帯を感知するAI技術の実用化も始まっている。

英・内務省(Home Office)は16日、ストラトフォード駅で武器を検出するAIシステムの実証実験を行った。英メーカー・ThruvisionのAI技術を駆使したもので、最大約9メートル以内の距離にある服に隠された銃、ナイフ、爆発物など兵器を検出することができるとされている。

同システムは、人の体温を遮断するモノを検出。訓練を積めば、警察官は物理的検査せずとも武器として使用されうる対象を識別することができるようになるという。すでに米国ロサンゼルスの地下鉄でも使用されている技術でもある。

おそらく、AIで社会を“見る”という流れは、世界的にはもちろん、日本でも抗えない流れとなりそうである。

そのなかで、AIによって「監視されている」と捉えるか、「見守られている」と捉えるか、社会の合意がまず重要になってこよう。一方で、レポートが指摘するように、データが悪用されないようAI監視システムの正当な運営を担保するガバナンスや、透明性が必須となってくるはずである。