人気が上がったり、ほかの取って代わる者が出てくると人気が下がったりしながら、vaporwaveのアーティストはあっという間に増え、広がっていった。2000年の初頭、単なるいたずらとして始まったものは完全にジャンルとしてひとり立ちしたと認識できるところまで成長した。そして、アーティストや批評家たちの“Vaporwave is Dead”という宣言にもかかわらず、mallsoftからvaportrapまで、新しいジャンルが日々出現しているようである。拡張していくvaporwaveの世界にすぐに追いつくことができるように、vaporwaveの中枢をなす主要なサブジャンルの中から、10のサブジャンルの概要を解説しよう。
【Eccojams】
多かれ少なかれ、vaporwave自体とほぼ一致しているサブジャンルがあるとすれば、それはeccojamsである。忘れられたポップカルチャー全体を合理的な表現の様式に変化させるという、ほとんどのvaporwaveのアーティストたちが使っている、まさにテンプレートを確立したのがこのサブジャンルだ。Daniel Lopatin (aka Oneohtrix Point Never)による『Chuck Person's Eccojams vol.1』は「とてもシンプルな練習」として2010年の上旬に誕生した。「好きな音楽を選んで、(中略)一部分をループさせて、スローダウンして、そこにエコーをかける――単純に、好きじゃないものは聴かずに、好きなものを聴きたいという欲望を静めるために」とLaptin自身は言っている。
しかし、もしプランダーフォニックス(*略奪[plunder]した音[phonics]を用いた音楽)の練習として始まったものだとしても、それはすぐに確固たるメソッドやフィロソフィとして発展していった。VektroidやMediafiredのようなアーティストたちは、eccojamsが提供したフレームを受け取り、それを新しい曲やサウンドスタイルに使った。そして、そのコンセプトはサイドプロジェクトというような小さなコンセプトから外に出しても使えるのだと証明してみせた。しかしながら、Darksleepや회사AUTOなどのアーティストたちが古い音楽を使って新しい音楽を作るようになったことはまた別として、この音のマニピュレーションで、そういったプロデューサーたちは古いトラックを新しいライトの下に出すことになったのだ。ゆがめられたり、解体されたりしながら、まるでCyndi Lauperの“Time After Time”やMr Misterの“Broken Wings”がある種の精密な検査でも受けさせられているかのようである。それらの曲は、賞賛される、マネられる、非難される、といったことをまったく同時にされるのだ。そして、vaporwaveが大衆文化を批判する大衆文化のムーブメントとして現れたのは、まさにこういったことが行なわれていた中でのことだった。
【Utopina Virtual】
このジャンルの系譜の中央に位置するふたつのスレッドのうちのひとつとして、eccojamsと並ぶのがutopian virtualである。utopian virtualは、2011年、ランドマーク的な作品であるJames Ferraroの『Far Side Virtual』で誕生した。その時はまだvaporwaveと同義語ではなかった。eccojamsのぼんやりとした混乱とは対照的に、このサブジャンルはクリーンともいえるレベルの透明感ある音が特徴的である。より重要なのは、アイコニックなWindows 95やSkypeのスタートアップ音など、商業とコンピューターの歴史の、それほど遠くない時代からもってきたサウンドをわかりやすく使用することで、何か合図を送っているということだ。
一部では ‘hypnogogic drift’という名前で知られているpost-internetは、コンピューターナイズされた抽象性や未来的でほとんどディストピアのようなサウンドスケープを中心に展開しているvaporwaveの一派である。その音楽の多くは、サブリミナル的であるというところはアンビエントのようであり、mallsoftにも似ている。しかし、mallsoftと異なっているのは、消費者主義よりも私たちの生活へのデジタルテクノロジーの侵入ということにテーマの焦点が合わせられているところだ。これを一番はっきりと示しているのが、骨架的の『Holograms』とInfinity Frequenciesの『Computer Death』で、これらの冷たいシンセサイザーの音やリバーブの染み込んだSFテイストは、荒涼としているとまでは言わなくとも、一見したところほとんど人がいないような、人間味のない環境を作り出している。そういった温かみのない環境で、『A Heart Full of Love』や『油尖旺 DISTRICT』といったまた別のカギとなる例は、いかに私たちの時代が、インターネットやデジタルメディアは単に人々が使うツールであるというところから、まさに生活そのものやアイデンティティとなるところへと進んでいる時代であるか、ということを表現している。だからpost-internetはpost-internetと呼ばれている、これらの作品はそういった印象を作りだしている。
そして、vaporwaveに対するリアクションに関しては、hardvapourほどかなり辛口なジャンルはない。Sandtimerの『Vaporwave is Dead』などのhardvapourを形づくるアルバムとともに、hardvapourがその親であるvaporwaveから派生してわずか1年ほどしか経っていないが、hardvapourはあえてvaporwaveのおとなしい柔らかさと自己破壊的なアイロニーを非難した。連続するビートをふりかざし、古典的なvaporwaveよりも、むしろgabberやtechnoのようなサウンドで、そういったレコードは、『MANIAX』(ふさわしいタイトルがつけられている)のDJ ALINAや『WELCOME TO PRIPYAT, PART 2』のKLOUKLOUNのようなアーティストたちが、すぐに後に続く基盤を作った。