中世日本紀 主な神話 第六天魔王と天照大神

 


沙石集(しゃせきしゅう/させきしゅう)には、伊勢神宮の神職に聞いた話として、次のような記述がある。



天照大神が日本国土を創生した際、海中に大日如来の印文があるのを見て鉾で海底を探り、その鉾から滴が滴り落ちた。その様を見た第六天魔王(だいろくてんまおう)は「この滴が国となって、仏法流布し、人倫生死を出づべき相がある」として、この国を滅ぼそうとした。天照大神は、これに対し「我は三宝の名を言わないし、自らにも近づけないから帰り給え」と言い追い返した。この約束を守るため、伊勢神宮では僧を近づけず、仏教用語は隠語にしているが、実は内心では深く三宝を守っている。



また、同種の神話は『平家物語』、『太平記』などにもあり、この約束の証拠に第六天魔王から貰ったのが神璽(しんじ。八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま))であるとする。(中世においては八尺瓊勾玉は印であるとされていた)なお、『通海参詣記(つうかいさんけいき)では約束をしたのは諾冉二尊(だくさつにそん。イザナギとイザナミ)という。



このため一時期の関東では、天照大神は『虚言ヲ仰ラルゝ神』であるとして、起請文(きしょうもん)などの誓いの対象から外されるといった現象が起こったという指摘がある。