輪郭・骨切りが専門の外科医宮﨑です。
その他、目や鼻、若返りの施術も行っていますので、お気軽にご相談にください。
さて、今回は顎矯正手術(両顎手術)における歯列矯正に関して、解説したいと思います。この術式は噛み合わせ(=咬合)と輪郭が密接に関わるため、避けて通れないお話です。この施術を検討した場合は、輪郭や骨切りだけではなく咬合に関しても十分理解して臨む必要があります。少し長くなりますが、最後までお付き合いください。
術式について
繰返しになりますが、まずはこの顎矯正手術(以下、両顎手術)の術式に関してお話します。上顎骨をルフォー1骨切り術(図の①)、下顎骨を矢状分割骨切り術(=BSSO、SSRO)(図の②)、オトガイ形成術(図の③)の組み合わせでプランを組み立てます。
セファロ解析上、上顎骨が問題ない場合はBSSOのみ行うone jaw surgeryというコンセプトでプランを組み立てることもなくはないですが、下顎骨が適した位置にない場合は必然的に上顎骨もずれがあり動かした方が良いことが多く、基本的にはtwo jaw surgeryというコンセプトで上下の骨切りを同時に行います。
one jawだけですと咬合のズレが大きく出てしまうため、矯正に負担がかかります。また咬合平面の傾斜を変えることができないため、two jawで動かした方が歯列矯正の負担を軽減できます。
オトガイ形成はさまざまな骨切りデザインがあり、どのように輪郭を変えたいかにより選択していきます。デザインによってはミニVラインと呼ばれるエラに向けて余分は部分の骨切りを追加したり、エラそのものが張り出している場合は同時に下顎角形成術を行うこともあります。
保険か自費か
この施術において、この点も理解が必要です。
顎変形症という診断がついた場合は保険適応となり皆保険制度に則り治療が可能になります。その場合、術前矯正が必須になります。術前矯正を行い歯列が整った段階で骨切り手術になります。期間としては術前矯正が3年〜5年ほどになる事があります。術後もしばらく調整のための矯正が必要になります。手術の組み立て方としては上下顎骨切りを行い、オトガイ形成は別途行うことが多いです。1年後などにプレートを抜去する抜釘術と併せてオトガイ形成術を行う施設もあります。術前矯正の定義は6か月以上となります。術前矯正の途中で手術を行ってしまうという方法を取っている施設もあります。
では自費で行う両顎手術は順番の縛りがなくなります。術前矯正を行わなければいけない保険診療と異なり、順番はどちらが先でも良いということになります。自費で両顎手術を行っている多くの施設ではサージェリーファーストアプローチという方法をとっています。手術を先行して行い、術後矯正で咬合を整えるやり方です。この最大のメリットは、術後矯正が短期間で済むことです。トータルの治療期間が短縮されます。術後矯正は1年〜1年半程度で
目処が立つ方法です。この方法は保険適応になっていない順番なので、自費でしか行えないプランとなります。顎変形症と診断がつくような場合でもサージェリーファーストで行いたいということで来院される患者様もいらっしゃいます。
治療期間が短いこと、歯列矯正が短期間で目処がたつメリットは大きいのですが、デメリットもご紹介します。
まず、自費治療でしか行えないという点です。保険診療の場合は3割負担で治療が行えるのが、この日本です。自費治療であれば全額が自己負担となりますし、自由診療となるので施設により料金は様々です。
次にサージェリーファーストの咬合プランを立てられる矯正歯科医が少ないという点です。矯正歯科医の中でも顎変形症の治療に携わっている歯科医師は少なくなり、さらにサージェリーファーストに携わっている歯科医は限られてきます。同じ顎矯正手術の矯正でも、サージェリーファーストは趣がかなり異なるそうです。
最後に感染のリスクが若干高くなります。術前矯正を行っている場合は数年での矯正治療により、齲歯の治療や歯石除去などのクリーニングなどを適宜行っていくので、口腔内環境が整えられた状態で手術を行います。なので感染のリスクを極力避けて施術が可能となります。サージェリーファーストの場合は手術を先行するので、口腔内環境がしっかり整えられずに施術に至る場合があります。もちろん術前に矯正歯科などでクリーニングの処置や齲歯の治療などは行ってもらいますが、普段からクリーニングを行っていないと、十分な準備が整っていないこともあり、それが感染のリスクを高めてしまいます。なので、この両顎手術を検討されている方は、普段からクリーニングなど定期的な歯科検診を受けて、口腔内環境を整えておくことを強くお勧めしておきます。
矯正期間の違い
術前矯正は時間がかかります。通常の矯正と同じようにワイヤーなどでトルクをかけて歯を動かして行くわけですが、術前の時点で噛み合っている咬合を、未来の骨の移動を見越した咬合に動かしていきます。つまり、噛んでいる状態から噛まない状態を作り出していくので、当然時間がかかります。ワイヤーでトルクをかけていても、普段の噛み締めの力の方が強いので、なかなか思うように歯が動きません。なので時間がかかります。
骨切り後は骨を切ったことによる骨の反応により歯が動きやすいということもありますが、噛む方向に動かしていくので、よりトルクが歯へかかりやすくなります。
術後矯正の注意点
ただ、先に骨切りをすることで上下顎骨の位置が手術をきっかけに一変するので、術後の違和感はかなり強くなります。正中が変わったり、水平方向での傾きが変わったり、咬合平面の前後方向の傾きも変わると顎運動にも変化が出るため、慣れるのに時間がかかるかもしれません。そんな中、咬合が出来上がってないとさらに不安定になります。その咬合が未完成の状態も様々で、奥歯の一部が両側あたるのであればまだ良いですが、片方一部だけの接触となると、咬合が不安定で違和感が強くなります。そんな中で歯列矯正がスタートしても、ワイヤーのトルクがしっかりかかるようにするため、余計な噛み締めは治療の妨げになります。また歯列矯正途中で、ある時下顎が若干横方向にシフトした状態で噛めるようになってしまう患者様もいます。そうすると当初予定していた下顎の位置ではない場所で咬合が仕上がってしまうこともあり、顎関節に負担がかかってしまいます。
手術先行することでトータルの治療期間の短縮が図れるのは確かですが、術直後で不安定になる咬合に対して行う歯列矯正は、通常の矯正とは違った注意が必要になります。そしてこの違和感を気にしない忍耐力が必要となります。
日常生活での咬合について
では、その咬合ができていない状態でどのようなことに注意して生活すれば良いのかご説明します。まず、日常生活の中で上下の歯が噛み合っている時間はどんな時かを考えてみましょう。何か重いものをもったり、力を入れて踏ん張ったり、階段を駆け上がったりした時は、上下の歯を噛み締めていると思います。では、何気なく歩いている時はどうでしょうか?その時は上下の歯は当たっていません。食事をする時も、細かいものを食べると上下の歯同士は当たりますが、塊を咀嚼運動ですり潰す動きでは当たらない状態で動いています。つまり、よほど変な角度の歯が1点で当たるような邪魔するものがない限り、咬合ができていなくても普段の生活に支障がないはずです。
ただ、噛み合わせが悪い状態はとても違和感があるのは事実です。それは術前までは噛んでいたのに、手術をきっかけに突然噛まなくなるからです。
別の角度から考えてみましょう。齲歯により数本歯がない方や、元々逆被蓋と呼ばれる受け口で噛み合わせが悪く、歯列も整っていない人を想像してみてください。そういった咬合の方でもご飯を食べていると思います。生まれながらの歯列や徐々に崩れてきた咬合には時間をかけて順応しながら日常生活を送っています。これが手術をきっかけに一変するから難しいのです。とは言いましてもサージェリーファーストアプローチのメリットも大きいため、術後の矯正には様々な注意点が必要となります。
矯正の方法
矯正方法は通常の矯正と同じような考え方でできます。ワイヤー矯正の場合ですと、前で行う方法、舌側で行う方法、ハーフリンガルと呼ばれる上は裏、下は表で行う方法があります。表で行うと目立ちます。ただ最近は白いブラケットに白いワイヤーもあり、金属感がない素材もあります。裏で行うと目立ちにくいですが、口を開けると下顎のワイヤーが見えます。また歯磨きはとてもしにくいので、時間もかかりますし齲歯になるリスクもあります。歯垢や歯石がたまり口臭の原因にもなります。ハーフリンガルは一番見えにくい装着部位で、歯磨きのしにくさは半分という感じです。歯磨きのしやすさで言えば、表が一番楽になります。
そして、インビザラインなどのアライナー矯正でも矯正が可能です。アライナー矯正は見た目としては一番目立ちにくく、歯磨きもブラケット、ワイヤーがないためかなり楽になります。ただ、つけ外しの手間はあります。ご飯食べる時ははずす必要があります。また元々の歯列によってはつけ外しに力がかかるため、傷口の痛みを伴うこともあります。最近のアライナー矯正は様々な方向にトルクをかけるために歯に突起物をつけます。これが着くことでさらに着脱がしにくくなります。
矯正が終わるとリテーナーという歯を固定するマウスピースを使います。これを使わないと後戻りのリスクがあるので装着が必要ですが、このリテーナーのことを考えるとアライナー矯正と同じなので、着脱の手間は矯正後皆さんが通る道と考えておくと良いと思います。
どの矯正方法も一長一短があります。どれが適しているかは矯正歯科医としっかり相談してして、個々人に最適な治療方法を選んでいただけると良いかと思います。
まとめ
長くなりましたが、最後までありがとうございました。両顎手術は骨切りのみならず、矯正歯科治療も必要な治療期間がとても長い施術です。治療内容の十分な理解と、経過での注意事項などを把握し、外科医や矯正歯科医としっかりコミュニケーショを取りながら取り組むと、治療がスムーズに進みます。
リノクリニック東銀座
院長 宮崎邦夫
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