「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」
名将 野村克也の名言。
勝った試合、
相手のつまらないミスによる、わけのわからない勝ちがあるが、
負けた試合には必ず負けた理由がある。
それを追求せず、
「今日はついてなかった」と酒を飲んで寝ていては、
いつまでたっても勝てない。
花産業、
ここのところ負け試合がつづいている。
負けた理由は必ずある。
図1 消費減少率
2000年の流通量(国産+輸入)を100としたときの比率(%)
2014年のチューリップ5,000万本、宿根カスミソウ7,000万本は、
農水省の統計がなくなっているため宇田の推定値
負けがこんでいる名門バラ。
花屋さんの店先でのバケツ争いに敗れた。
店にならべるバケツの数は決まっている。
花屋さんが売りたい花が増えたので、相対的にバラのバケツが減った。
2016.5.13 KEITRA2015「選ばれる品目」
http://keitora-3824.jugem.jp/
画像 店先のバケツ戦争
バケツの数は限られている
バラも欲しいが、トルコも、ダリアも、ラナンキュラスも・・・
大敗(おおまけ)のチューリップ。
敗因、
すでに説明したろくろ首。
花首が見ている間にのびて、花びらがぱっくり開く。
花屋さんが店に置きたくない花。
対策はすでにできている。
花首がのびるのを抑える薬剤で前処理。
エチレンで抑えられる。
エチレンは老化ホルモンで、多くの切り花の日持ちを縮めるが、
茎が伸びるのを抑える働きもある。
薬剤はエスレル。
商品は「クリザールBVBエクストラ」など。
2016.1.31「日本人が好きな花はバラとチューリップ」
http://ameblo.jp/awaji-u/entry-12123425620.html
2013年1月13日「技術はそこにある(JA中条町の英断)」
http://ameblo.jp/udaakira/entry-11448124687.html
画像 左:エスレルで前処理
右:前処理なし
宿根カスミソウ。
なぜ頭に「宿根」がつくのか?
別に1年草のカスミソウがあるから。
こちらは切り花では少ないが、春の花壇ではおなじみ。
画像 1年草のカスミソウ
おもに花壇用で切り花は少ない
たねをまく
画像 宿根カスミソウ
切り花用はこちら
さし芽で増やす
宿根カスミソウ、
負けた理由を分析し、対策を講じ、勝ちに転じた数少ない花。
負けていた理由。
①赤バラにカスミソウ、ピンクのカーネーションにカスミソウ・・
あまりにもぴったり合いすぎて、定番化。
プロに飽きられた。
復活の理由。
素人の根強い支持。
定番でけっこう。
お客さまはカスミソウがあっての花束。
その証拠に宿根カスミソウを印刷したスリーブ。
その意味は、
「残念ながらカスミソウは入っていませんが、スリーブの写真でカスミソウが入っているような雰囲気」
画像 カスミソウを印刷した花束用スリーブ
②白花しかない。
染め技術の向上で、自由自在に色が作れるようになった。
流行のラメもある。
③もっとも大きな敗因。
臭(にお)い。
臭(くさ)い。
宿根カスミソウの悪臭、
おじさんの臭い。
画像 宿根カスミソウの臭いはおじさんの臭い
なぜ可憐な花がおじさんの悪臭?
植物にはそれぞれの事情がある。
進化の過程で、宿根カスミソウはハエの力を借りて受粉、
子孫を残すことを選んだ。
ハエを呼び寄せるための臭い。
ということは、おじさんにもハエが寄ってくるのか。
幸いなこと。
京都大学 土井教授らの研究で、臭いの原因物質と、臭いを減らす物質がわかった。
カスミソウの悪臭は、「イソ吉草酸」
まさに人の汗の臭い。
イソ吉草酸の臭いを減らす物質は、
「イソアミルアルコール」などのアルコール類。
商品としては「クリザール カスミSC」などがある。
カスミソウはもともと収穫後砂糖が入ったSTSを吸わせていたので、それに臭いを減らすアルコール類が加わっただけだから、生産者の手間はかわらない。
残念なこと。
臭い抑制の持続時間。
抑制剤を吸わせたあと、4日程度は悪臭が減るが、その後に咲いてくる花には効果が小さい。
次のステップ。
①花屋さんでのバケツ戦争は産地、個人の争いではなく品目間競争。
すべてのカスミソウが臭い抑制の前処理をしないと大きな力にならない。
まだまだ普及率が低い。
②処理方法の向上。
前処理だけでなく、輸送中のバケット、後処理など連続した処理。
③「おじさんの悪臭を減らす+芳香」処理剤
臭くないカスミソウから芳香のカスミソウへ、ホップ、ステップ、ジャンプ。
土井教授らの研究で実用化。
④根本的な解決策は品種改良。
初期の代表品種「ブリストロフェアリー」は本当に臭かった。
その後、登場した新しい品種は臭いが減ってきている。
宿根カスミソウはもはや人の手を借りて生きる園芸植物。
野生のときのようにハエを寄せあつめる必要がなくなった。
臭いがしないカスミソウが登場するのは時間の問題。
さて、宿根カスミソウの消費がV字とまではいかないが、危機を脱することができたのは、
支える研究者がいたから。
技術開発なくして成長なし。
研究者なくして技術開発なし。
バケツ戦争に敗れたバラ。
日本から研究者・技術者がいなくなってしまったことが問題。
「宇田明の『まだまだ言います』」(No.20 2016. 5.15)
以前のブログは
なにわ花いちばHP(http://ameblo.jp/udaakira)でご覧頂けます