時折思い出す
あれは確か12もしくは13年前
儂は東村山駅の手前の通りを歩いていた
薄い長袖を着ていた記憶があるのでそう寒くも暑くもない頃だろう
儂はその時は若干俯いて、斜め下を見ながら歩いていた
そしてふと顔を上げると、向かって左にそれはそれは大層美しい男女がこちらに向かって歩いてきていた
儂はあれほど美しい人を後にも先にも、つまり未だに見たことがない
儂はあまりの美しさに「はっ!?なんだこれは」と意識を取られ、二人をまじまじと見つめてしまった
男女は並行して歩いており、女の方が儂の左手すれすれを歩き、過ぎ去っていった
なんでこんなに近いんだとは思ったが、そんなことよりも美しさに頭が混乱していた
これだけなら単に「美しい人が歩いていた」というだけのことで終わるため、いちいち文を認めることなどない
なぜ文章にするのか
それはその過程が奇妙だったからだ
二人には違和感があった
それも酷く大きなものだ
多感な時期にある当時の儂が勝手にそう感じたものかもしれない
それでも違和感があったことは間違いない
なぜなら、感覚というものは主観でしかないからだ
何が奇妙だったのか
いや、奇怪だとか、悪寒がするだとか、そういった負の類のものでは全くない
ただただ神秘性を感じたのだ
空気が違うとでも言おうか
二人の姿はあまりにも完成されていたため、リアル系ゲームのプリレンダムービーを見ているような現実離れした心地があった
美しいが、生物感がない
どう美しいか
まず近接した女だが、酷く抽象的な言い方だがまず頭身のバランスが取れていた
極端に痩せても太ってもいない
細すぎず、角ばってもいない顎をしていた
ちょうどいい高さの鼻は鷲鼻でもない
唇も厚くも薄くもない
頬も一切こけておらず、ほうれい線もなかった
二重の目は丸くなく切れ長でもなく、その中間の、わざときれいに作られたような塩梅をしていた
そして男も、それを男性的にした同じような顔をしていた
つまり、顎をやや長く相対的にがっしりさせ、目を少し細め、額に険を加えた感じだ
優男であった
儂が思う男らしい男の風貌ではなかったが、それは間違いなく美しいものだった
要するに、二人はバランスの取れた美しさだったのだ
一切皺もない
女の身長は儂よりおおよそ8cm程度低く、男は同程度だった
男は黒いスーツだがタキシードだかそれらの中間の風貌、女は結婚ドレスと白い洋装の中間の服を着ていた
男女黒白で、対比感があった
いずれの服も肌にやや密着している感じ、つまりボディーラインを出す程度の締付具合だった
二人は肌も白いので(手と顔の白さが一緒だった)、その衣装の極端さと相まって尚更神秘的に映った
外人には見えず、しかし日本人にも見えなかった
髪型の知識が無いので種類で例えられないが、男の髪は黒く、横も後ろもさっぱりしており、それらが頭頂部にかけてやや長くなっていく髪型をしていた
女は金色と白の中間の髪色で、横の毛を垂らしつつおでこを出し、後ろで纏めていた
なにかのコスプレだったのだろうか?
加えて、なぜだか二人の姿は明るく見えた
そこだけ明度が高い
輝いて見えた
また、二人は一言も会話することなく、両人ともやや斜め下を見て、死んだような顔をして歩いていた
つまり表情は全くなかった
とはいえマネキンよりは明らかに生物感がある
更に、たまたまかもしれないが二人の周囲およそ半径10Mに儂以外に人がいなかった(それより先にはパーマのおばちゃんが歩いていた)
二人は道の真ん中を歩いていたのだ
同じ位置に図々しい儂も闊歩していたというわけだ
なにかの撮影でもしていたのか?
しかしそれなら儂がすぐにカメラマンの存在に気づくはずだ
遠距離から撮っていたのか?
おばちゃんはエキストラか?
ならば、被写体のすぐ横を横切った儂の姿はひたすら邪魔で、没カットになったことだろう
ここまでならそれほどの不思議はない
ただきれいな人が歩いていた
それだけの、人をじろじろ見それに感動した儂がただただ下世話なだけの話に収まる
しかしもう一つ奇妙な点があった
美しい二人に対し「あれは役者か?モデルか?」などと三秒程度考えた儂がもう一度二人を見るために振り返った時点で、すでにその姿は消えていた
頭の中が???になった
二人は、直ちに何らかの建物に入れる距離を歩いてはいなかった
彼らのゆく先に曲がり道があったが、仮にそこに向かっていたとしても、そこを曲がっていく姿が見えたはずだ
儂はしばらく「はえ?」となり二人が向かいうる方向を見回していたが、一切その姿を認めることはなかった
故に不思議
普段儂は他者の風貌に感動を覚えることはない
そんな儂が、もう一度見せろ!もう一度見たい!と思い焦って周囲を見回したのはこれが初めてであった
以上、美しい人を見かけた話
美しいだけならまだしも、消えたことが不思議だったというわけだ
神か妖精の類だったのであろうか
考えすぎかあ
ちなみに現状、儂が描いている己のキャラたちに上記の二人のイメージを投影したことはありませぬ
二人のことを時々思い出してはすぐ忘れるしな
しかしこうして今その存在を思い返している
ならば今後、その二人をモデルにしたキャラをこさえてもよい
二人に対する違和感は気味の悪さを全く含まないもので、夜空で横移動する星を見た時の不思議さだったり、夕刻の湖上空を猛スピードで飛び去る怪を見た時の奇怪さだったり、夢で見たものが翌日話題になり儂すげえとなった全能感だったり、夜中に母と同じ雰囲気を纏った気配が近づいてき、膝を叩かれた時のような恐ろしさだったり、夜間散歩中に耳元で突如聞こえた風鈴の音のような有り得なさもない
ただただ神秘的なだけである
まあ、これらの話すべて儂の頭が錯乱し幻覚を見ていたのだと言われればそれまでだがな
ただ、動く星に関してはその場にいた友人と同じ光景を確認しあったので現実にあったことだと思っている(現実的に考えて、あれは流星か人工衛星だったのだろう)
しかしそれも、たった二人の証人だけでは現実に起こった話とは認めないとする意見もありそうだ
すると何か、集団催眠か?
儂の体験は全てまやかしか?
それを言っちゃあ
おしめえよ