アイヌの明日:有識者懇報告を前に/下 4000人割る会員、進まぬ組織化
<毎日新聞北海道>
◇誇りにつなぐ政策を
「総会すら開いていない支部がある。組織運営上、問題がある」。5月、札幌市中央区の「かでる2・7」であった北海道アイヌ協会の総会。組織強化担当の秋辺得平副理事長は協会が抱えるアキレスけんの存在を指摘し危機感を訴えた。
協会は道内のアイヌを束ねる最大の組織で、戦後間もない1946年に発足した。支部は48カ所。このうち14支部は08年度、総会を開かなかったという。
会員数は05年度に4000人を割り込み、09年4月末には3471人に落ち込んだ。3けたの支部もあれば、1けたが8カ所ある。生活に追われ、会費(札幌支部は年5000円)を払えずに抜けていく者もいる。
2万5000人ともいわれる道内のアイヌ。組織化が課題の一つとなっている。
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アイヌ政策の在り方に関する有識者懇談会。29日の報告書に、今後の政策にアイヌの声を反映する審議機関の設置を盛り込む。懇談会には道アイヌ協会の加藤忠理事長が参加した。これからの審議には、道外の代表が入ることも欠かせない。
関東ウタリ会、東京アイヌ協会、レラの会、ペウレウタリの会。四つの任意団体は首都圏を中心に活動し、アイヌウタリ連絡会を作っている。「アイヌ団体が一つになって要望をまとめ、国にぶつけていくことが大切」。長谷川修事務局長は全国組織の必要性を訴える。
08年7月、道内で開かれた先住民族サミット。海外と道アイヌ協会などの国内のアイヌ団体が初めて一堂に会し、全国的な組織づくりの必要性について一致した。しかし、1年たっても本格的な議論は進んでいない。
東京都の調査(88年)によると、都内のアイヌは約2700人。奨学金や住宅建築の援助などが受けられる道内のアイヌに比べ、道外には何もない。長谷川事務局長は「切実さに違いがある。それが議論が進まない原因の一つ」と温度差を指摘する。道アイヌ協会の阿部一司副理事長は打開策として「各団体が参加した『アイヌ民族会議』をつくりネットワーク化する」という構想を描く。
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「先住民族は権利を享受するため、国からの資金及び技術上の援助を利用する権利を有する」。国連・先住民族の権利宣言(39条)は、国の責任を明記した。組織化と政策づくりは車の両輪。「生活支援などが具体化すれば、協会などへの入会希望者が必ず増える。アイヌであることを隠している人も、誇りに思う日が来るだろう」。阿部副理事長はそう確信している。