気になった文献から少々長めに引用させていただく。

1) 脳性麻痺児の股関節の内転筋(薄筋など筋腹の長い二関節筋は緊張が高く、逆に短内転筋など筋腹の短い一関節筋は緊張が少なく関節の安定に働くという仮説)と屈筋(多関節筋である大腰筋は過緊張を示し、筋腹の短い一関節筋である腸骨筋は股関節の安定に働く)を臨床的に観察するなかで、一関節筋と二関節筋は機能的に異なった機能をもっているのではないかという発想がもたれることになる。

 

すなわち、一関節筋は主体的には重力に抗して体を持ち上げる抗重力性をもった筋、すなわち抗重力筋ではないだろうか、そしてこのような関節の周囲を取り囲む抗重力筋が股関節の安定に重要な役割を果たしているのではないだろうかという発想がもたれることとなる。

 

短い一関節筋が体の空間への持ち上げに参加し、四つ這い、直立二脚歩行などが可能となる。 一方、二関節筋は粗大な屈曲伸展動作に関与し、しかも抗重力性はもたない粗大動作筋ではないかという発想でもある。

 

多関節筋は二つ以上の関節を同時に動かす分離性の少ない粗大動作筋であり、抗重力性がなく平面上での屈伸を行う。

 

ここで抗重力性のない粗大な屈曲伸展動作とはどのようなことかという疑問に直面する。そしてこのような原始的な屈曲伸展動作はまだ四つ這いのできない腹這いレベルの赤ちゃんや脳性麻痺児に無数に観察される。

 

抗重力性のない粗大な屈曲伸展動作は脳の発達の未熟な乳児や脳性麻痺児の推進時にみられ、抗重力性のない推進動作と考えられる。またそれは二関節筋によって引き起こされると考えれ、このことから二関節筋は体の推進筋ととらえられる。

 

  更に観察をすすめると、一つの動作筋に一関節筋と二関節筋が共存しているところが他の部位でも多数にみられる。足底屈筋である下腿三頭筋は二関節筋の腓腹筋とヒラメ筋からからなりたっている。このうち一関節筋のヒラメ筋が抗重力性が高く体の全体重を支え、足関節を安定させ、一方、二関節筋である腓腹筋は足の蹴り出しで体の推進移動に携わっていると考えられる。

 

  膝の伸展筋である大腿四頭筋でも同じである。一関節筋の内外側広筋は体を空間に保持する膝の抗重力伸展筋、二関節筋の大腿直筋は蹴り出し推進のときの膝の伸展筋と考えられる。Romerの著書The Vertebrate Body 5th 1977の中に哺乳動物に一関節筋が分離して発達してきていることが示されているが、抗重力性が必要になるにつれ一関節筋が二関節筋から分化して発達し共存しているものと考えられる。

 

  多関節筋から一関節筋が分化し、より短い一関節筋が分化するにつれて抗重力機能が増大し、腹這い、四つ這い、直立二脚歩行が可能となる。同時に神経系の発達もあったものと思われる 1)。

 

次回に続く。
次回は 一関節筋内の過緊張。

 

1)松尾隆:脳性麻痺と整形外科,南江堂,1991,5-6,40