『メイキング・オブ・TENETテネット クリストファー・ノーランの制作現場』を読んで | アンパンマン先生の映画講座

アンパンマン先生の映画講座

映画の面白さやストーリーの素晴らしさを伝えるため、感想はネタバレで、あらすじは映画を見ながらメモを取って、できるだけ正確に詳しく書いているつもりです。たまに趣味のAKB48のコンサートや握手会なども載せます。どうかご覧ください。

 

 時間の順行と逆行が入り乱れた『TENETテネット』のストーリーが難解で、また、それらの場面をどのようにして撮影したのか知りたいと思っていたところ、『メイキング・オブ・TENETテネット クリストファー・ノーランの制作現場』と言う書籍が発刊されている事を知った。近所の書店で売っていたので、税込み6,600円は少々高いと思ったが、購入した。一番知りたかった複雑なストーリーについての解説はなかったが、キャスティング、ローケーション・ハンティング、デザイン、撮影の裏話など、さまざまな事が詳しく載っていた。そこで、この本を読んで分かった事を、簡単に紹介する。

 

1.フリーポートでの戦い

 クリストファー・ノーラン監督は「とびきりややこしい撮影から始めよう。その方が皆にこの作品を早く理解してもらえ、効率的に撮影を始められる」と言って、オスロのフリーポートでの戦いから撮影を始めた。セットはロサンゼルスのワーナー・ブラザースのスタジオで撮影された。保管庫の設計図や、回転ドアのミニチュア、設計図なども掲載されており、興味深い。

 ガラスの弾痕は、高圧空気でテフロン球を発射して作った。アクションシーンは、普通の順序で行われた。後に時間を逆行した主人公から見た場面もあるので、逆再生しても一貫性があるように微調整しながら撮影した。撮影にかかった時間は5日間。

2.オペラハウス

 キエフのオペラハウスとして撮影したのは、エストニアの首都タリンにある閉鎖された音楽ホールの「リンナハル」で、内装を綺麗にして撮影に使った。約3,300人のエキストラが参加した。催眠ガスで眠らされている設定なので、一人でも動くと撮り直ししなければならないが、エキストラはしっかり「演技」して、撮り直しはなかった。

 時間逆行弾丸の撮影は、穴から煙霧機で煙を出し、次に真空ポンプで煙を吸引した。逆再生させたかと思っていたが、こんな方法を使ったとは驚いた。

 

ボックス席の爆破シーンはプロパン。外から撮った時は炎が大きくなるようにガソリンを使っている。

3.研究所

 射撃場の撮影は、コンクリート壁に爆竹を埋め込み、コルク、石膏、コンクリートを吹き飛ばし、これを逆回転撮影した。

 収納庫は広く見せるため、奥は書き割り(絵)である。

 科学者バーバラ役のクレマンス・ポエジーは妊娠しており、良く見るとお腹が大きい。

4.タリンの回転ドア

 タリンのフリーポート内にある回転ドアは、左側が青色で過去の時間軸、右側が赤色で未来の時間軸。時計が放つ光も、部屋の照明も青と赤で分けられている。

5.高速道路でのカーチェイス

 高速道路での3週間の撮影許可を申請したが、タリン市長は2週間しか許可しなかった。撮影期間が足りんし、とタリン市長に延長を申請して、3日間延長の許可が出た。

 ヨーロッパの消防車にははしごがないので、撮影隊が現地で調達した消防車にはしごを溶接して「屈折はしごつき消防車」を作った。

4台の「ヒーロー」車の屋根にはポッド・リグが取り付けられ、俳優が車内で演技している間、ドライバーのスタントマンがポッド内に座って車をコントロールした。車の全景が映る場面では、撮影後にVFXでスタントマンとポッドを消した。

 

 車を後退させながらドライバーが安全に車をコントロールするために、後ろ車軸に取り付けてある差動装置を逆に取り付け直した。また後退する際にスピードが出すぎないように制御されているため、設定を変えるのにかなり手間がかかった。主人公の車が横転する場面は、窒素ボンベを車に取り付け、圧力でひっくり返る仕組みだ。一度で成功した。

6.海上シーン

 セイターの全長73メートルの豪華なメガヨットは、ヘリポート付きのプラネット・ナイン号で、1億ドル(約100億円)の保険が掛けられた。メガヨット調達は難航したが、オーナーがノーラン監督の大ファンで実現した。キャットが約17メートルの高さから飛び込む場面は、ダイビングの選手。

 高速ヨットは、最高時速50ノット以上にもなるF50艇。アマルフィではなく、イギリスで撮影された。操縦に高度な技術が必要なので、F50艇に乗っているのは俳優の姿の専門家。ヘリコプターで追って撮影した。俳優はカメラを乗せた作業員輸送船の側面に、F50艇の船体の模型を吊るして撮影した。

 組織の巨大な船は、全長85メートルの砕氷船マグネ・ヴァイキング号。

 風力発電所は、デンマークにある。内部の場面もセットではなく実際に撮影した。

7.高層ビル侵入

 武器商人サンジャイ・シンの邸宅は、南ムンバイの高級住宅街にある高層ビル、スリー・ヴァルダン。最上階のバルコニーにトラス構造のリグを建造し、俳優やスタントマンをワイヤーで引き揚げた。隣の建物の屋根から主人公とニールが引き上げられる場面は、最初は俳優が行い、後はスタントマンが行った。リグは撮影後にVFXで消した。

8.飛行機激突

 オスロのフリーポートに激突する747型機は、中古の747を購入。南カリフォルニア・ロジスティックス空港で撮影。本物の建物の外側に、保管庫の建物のセットを作った。747は自走できないので、レッカー車で飛行機を引っ張った。予定より勢いよく突っ込み、セットを破壊したので修理してから撮影を再開した。監督はこのシーンの出来に満足した。

9.スタルスク12

 ロケ地探しは苦戦したが、カリフォルニア州インディオの廃坑となった鉄鉱石鉱山イーグルマウンテンで撮影した。本当に軍人だったエキストラ400人が、普通の動きの赤チームと、逆再生で動く青チームに分かれて撮影された。この村がシベリアにある事を示すため、人工の雪を降らせた。赤チームの場面では雪は普通に降り、青チームの場面では雪が空に上がっていくので、どの時間軸か見分けがつく。

 建物が双方の時間軸で同時に破壊される場面は、高さ約10メートルの水力で前に倒れる仕掛けになっている。それと、3分の1のサイズで、建物を2つ作った。1つは下部で、上部が崩れた衝撃で下部が吹っ飛ぶように細工され、逆回転撮影された。もう1つは爆破される上部で、普通の時間軸の撮影用。

 核実験場の内部は、ワーナー・ブラザースのスタジオに建造された。

 

 以上、撮影方法を中心に簡単に紹介したが、この映画は非常に苦労して撮影したか分かる。156ページの写真満載のメイキング本なので、興味を持った方はぜひこの本を購入して読んで欲しい。

(「写真は「amazom」、「IMDb」より)

 

 

 

ABEMAプレミアム