「My Rembrandt(レンブラントは誰の手に?)」というタイトルの映画はレンブラントをめぐっていくつかのストーリーが織りなす。その一つにエリック・ド・ロスチャイルド男爵の所有するレンブラント作品の争奪戦がある。ちなみにロスチャイルドはユダヤ系の銀行家一族の一人。父親は第二次世界大戦中には収容所に入れられたこともある。エリックは,世界で最も高価なワインの一つ,シャトー・ラフィット・ロスチャイルドの所有者でもある。
彼はフランスに住んでいるが,相続税のために一対の肖像画を売却したいという希望。アムステルダム国立美術館の絵画部長(現館長)ターコ・ディビッツがここに現れ,絵の状態を見て,素晴らしい作品だがかなり汚れた状態と言うシーン。
アムステルダム国立美術館が購入しようとするが,価格が1億6千ユーロ(約200億円)という巨額のためすぐにはお金が集まらないので,フランスに共同購入を持ちかける。その一方,作品購入のため寄付を募る。一方フランス側は政治家が出てきて,作品の国外流出を阻止しようとする。いろいろあって結果的にオランダとフランスの共同所有ということになる。オランダ側の関係者としては落胆。ただし,まずルーブルでこの作品のお披露目があった。それはアムステルダムで修復したかったからという理由。ルーブルの展示後,アムステルダムで入念に修復されて,「レンブラントの作品が帰ってきました」というアナウンスのもと『夜警』と同じ空間に展示された。その時の美術館館長ウィム・パイベスやターコ・ディビッツの晴れがましい顔が忘れ難い。これを見ると,作品を大事にしているのはオランダ側なのだろうかと思えてくる。作品の来歴を調べるともともとオランダのコレクターが持っていて,19世紀末にロスチャイルドに売却した。その売却自体がオランダの芸術遺産が失われると物議を醸したそうなので,なかなか歴史的にも奥が深い問題といえる。
問題の作品。等身大のダブルポートレート。
Portrait of Marten Soolmans 1634
Portrait of Oopjen Coppit 1634
ロスチャイルドの邸宅には,この絵を描いた絵画も何点も存在する。大事にし誇りにもしていたことが窺われる。彼は手放したくはなかっただろうが,美術館を訪れれば誰にでも絵を見ることができるという点からすれば,美術館に入ったということはありがたい。この作品はぜひ見たいものだ。
女性の肖像の手のデテイル。
全くどういうふうに描いたのだろうか?この作品は1634年ということなので,以前にブログに書いた対の肖像画と同時期。画家として,脂が乗りきっていた時期なのだろう。