「じゃぁ、払い戻しの手続きをしといてくれ。」





徹は、スタッフと打ち合わせをしていた。


徹の隣に居た祐介の動きが止まった。


「侑子さん…」


祐介の視線の先には、侑子が立っていた。


侑子は、ゆっくりと歩みながら寄って来た。 そして、徹や祐介の間を抜けてステージに向かおうとしていた。


「どこ行くんだよ! そんなボロボロの状態で!」


祐介は、侑子の右腕を掴んで制止した。


「行かなきゃ… みんなが待ってる… 徹さん、私、歌いたいです。」


侑子は、ステージの方を向きながら独り言の様に呟いた。


「だって、もう中止を発表して30分も経つのに。」


「行けよ。 きっとまだ、侑子の事を待っていてくれてるはずさ。」


祐介の言葉を、徹は遮った。 そして、徹は続けた。


「俺は、あの時、多香子を止めなかった事は後悔してないよ。」


侑子は、うなずき前へ出た。


そしてカーテンを引きステージへと向かった。









¨ワーーーーッ¨


東京ドームは満員のままだった。 侑子が現れると、会場は割れんばかりに盛り上がった。









「みんな、ありがとう…」


侑子の瞳からは、涙が止め処なく溢れ出ていた。









「どうして? 確かに、コンサートの中止のアナウンスを入れたのに。」


祐介は、不思議そうに言った。


「侑子に会った後直ぐに、コンサート再開の放送を入れていたからさ。 きっと、侑子は戻って来ると信じていたから。」


徹は、言った。









完。
「徹さん…」





侑子の声は、震えていた。 既に、泣きじゃくった後だった。


「良かった、無事だったか。」


徹は、ホッと肩を撫で下ろした。


「…、徹さん、私、あの時、お父さんに殺されてた方が良かったんじゃないかと思うんです。 だって、こんなに辛い思いするなら、死んだ方がマシですよ。」


侑子は、かなり思い詰めていた。


そして、徹はゆっくりと続けた。


「俺は、お前から沢山のモノを貰った。 十分過ぎる位にな。」
「今度は、俺の方からお前に上げる番だよ。」


徹は、何の駆け引きも無しに、ただ純粋に思う言葉を侑子に告げた。



「私は、これからどうしたら良いんですか?」


侑子は、問い掛けた。


「お前の好きにしろよ。 ここで、歌手を辞めても、何も言わないよ。」


徹の言葉に、侑子は無言だった。


「じゃぁ、俺は行くから。」


徹は、そう言って出て行った。









「じゃぁ、払い戻しの手続きをしといてくれ。」


徹は、スタッフと打ち合わせをしていた。









つづく…
『ねえ、侑子さんは、誰とも話そうとしないんですよ。 "点滴しますよ"って言っても"体温計りますよ"って言っても。』





『仕方ないじゃない。 だって、自分の父親に殺されかけたのよ。』


侑子が、入院してる病室の向こうで看護婦が、ヒソヒソと噂話をしていた。









『こんにちは、私はひまわり園という所で園長をしてます。 今日から、みんなと一緒に暮らしましょう。』


『‥‥‥』









『先生、公園で歌の練習をして来ます。』


『行ってらっしゃーい!』









『初めまして、僕は崎本徹と言います。 よろしく!』









¨ドンッ、ドンッ、ドンッ¨


「侑子っ! ここに居るのか?」


女子トイレの個室越しに、徹は叫んだ。


「徹さん…」


侑子の声は、震えていた。 既に、泣きじゃくった後だった。









つづく…