夜の道をバイクで走る。
たった一人で、思うまま、気まぐれに。

 

時には夜明けまで走りっぱなしだ。
そうして疲れると、帰路の途中に吉祥寺の街で一休みする。
 

一休みといっても店など開いていない。
あちこちにあるベンチで缶コーヒーを飲むのだ。

 

以前は東急デパートの横に自販機がずらっと並んで、その前にベンチがあった。
吉祥寺通りからちょっと入ったその場所にバイクをとめて、コーヒーを啜る。
 

早朝の吉祥寺は、ゴミ収集車やトラックの音で意外と騒々しい。
それでも、風とエンジンの排気音でいっぱいになっていた聴覚はだいぶ休まってくれる。

また、井の頭公園で休むこともあった。
新鮮な朝の空気の中、ジョギングや散歩をする人々を眺めながらベンチでコーヒー。
公園ではスズメや鳩、カラスも活動を始めている。

 

長時間走ったあとは何も考えることができない。
目の前の出来事が全てになる。
それはある種の浄化だといえる。

それを目指したわけじゃないが、日頃考えすぎる自分が無意識に求めたのかもしれない。
だから昼間ではなく夜だったのだろう。
昼間は視界も音もうるさすぎる。


夜だけが自分を解放してくれる。