クリスマスが終わると、街のよそおいは一気に変貌する。

聖夜を彩るためにあちこちに掲げられていた装飾物は、無残にも一瞬にしてゴミと化す。代わりに正月向けの装飾物がとって替わる。

だからといって誰も特に驚きもしない。毎度のことである。

イベント好きの日本人にとっての次の話題といえば、カウントダウンであろう。

巷の情報雑誌には、カウントダウンの特集が組まれ、その紙面には花火大会、年越しライブなどの紹介記事がびっしりとひしめきあっている。

大晦日は、家族でこたつにはいってNHK紅白歌合戦を観る・・・。

そのような、日本人が昭和の時代からたどってきた平均的年越しスタイルに、さまざまな選択肢が増えたのも平成の時代に入ってからのことであろう。

前置きはさておき、忘れもしないあの年のカウントダウンだ。

あの年の12月31日午後11時30分頃。

今からカウントダウンが行われるイベント会場に俺と友人一行は到着した。

今年から大量の花火が打ち上げられるということで、注目のスポットだった。

予想はしていたが、かなりの人、人、人・・・だ。

たかがカウントダウンのためにどこからこれだけの数の人間が集まってきたのか・・・。

ただじっと、零時零分が来るのを待つためだけに、かなりのエネルギーを費やす行為。

人ごみがあまり好きではない俺はこの時点で、ここに来たことに内心後悔していた。

このとき風邪気味だった俺は人ごみを避けるべきであったのに・・・。

風邪のせいなのか、昼間から腹の調子が芳しくない・・・。

しかし今日に限って友人の誘いを断れずに俺はこのめでたい群衆の一員と化していた。

自分の気持ちがマイナスに働けば、自分をとりまく状況もマイナスに働くことは決して珍しいことではない・・・。

時間は刻々と進み、イベント会場の前面の電光掲示板の時計の表示が11時55分をまわった頃だ。会場は人で埋め尽くされてはいるが、底冷えが身体を冷やす・・・。

やはり、悪い波が俺に押し寄せてきた・・・。

腹が・・・。まぎれもなく俺の腹がギュルギュルと不気味な悲鳴を上げ始めた。

自分自身ではわかるものだ。この悲鳴はおそらく「我が下腹部のロケット花火」の前触れであることを・・・。導線にはもう点火されている状態なのだ。

そして来たるロケット花火発射の瞬間まで、タイム・リミットはそう残されてはいないことを・・・。

「これじゃあ、俺自身が、カウントダウンじゃねえか・・・?」

トイレはどこだ・・・。いったいどっちの方角だ・・・。

この緊急事態、ロケット花火をなんとか阻止せねば、人類に、いや俺に未来はないことは明白である・・・。

俺はとにかくこの絶体絶命のピンチから脱出を図るべく、前方にどんどん押し寄せてくる人の流れとは逆行してひたすら群衆の海を泳いで、突き進もうとした。

なにしろ、もう数分後にはおめでたいカウントダウンが始まろうとしているにもかかわらず、何者かに追われているわけでもなくひとりの男が必死の形相で人波をかきわけてただ突き進んでいる・・・。はなはだ迷惑というか、頭がいかれているのか・・・。

思ったより前に進めない・・・。頼むから道を空けてくれ・・・。

会場ではついに1分前のカウントダウンが始まった。

「60・・・59・・・58・・・57・・・56・・・」

そして俺自身のカウントダウンも・・・1分を切っていた。

トイレはどこだ・・・。

「10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0・・・HAPPY NEW YEAR ・・・!!!」

打ち上げ花火の火薬の小気味よい爆発音と、人々の歓声が遠くのほうで聞こえる・・・。

その瞬間、俺は安堵の表情でトイレの個室にいた・・・。

そう、奇跡的にも俺は、無事トイレの個室に飛び込み、我が下腹部のロケット花火の暴発を処理することができたのだ・・・。

しかし次の瞬間、重大なことに気がついた・・・。

なんとトイレット・ペーパーが・・・紙が・・・ないではないか。

これでは、処理しきれていないに等しい状態である。

個室がひとつしかないこの男子トイレにははたして紙のストックはあるのか・・・。

しかしながら下半身を露出した状態で紙を捜す・・・それはそれで危険な行為だ。

いつ人が入ってくるかは予測できない・・・。

そうだ、ここは仕方ない・・・個室の中で誰か来るのを待とう・・・。

俺は個室内で下半身を露出した状態でひたすら「神」の降臨を・・・

いや、「紙」の降臨を待ち続けるほかなかった。

俺は新年早々、何をやっているんだろう・・・。

さいわいにも数分後、トイレに人の入ってくる気配を感じた・・・。

「すみません!ちょっといいですか・・・!」

トイレの個室から、いきなり声をかけられたら誰でも驚くであろう。

「すみません!トイレット・ペーパー・・・とってもらえませんか!」

個室のドア越しだから、当然お互いの姿、顔、形はまったくわからない。

しかし俺が助けを求めた相手は、幸運なことに仕事が速かった・・・。

まもなく個室ドアの上部からスッとトイレット・ペーパーが差し出されたのである。

この瞬間、「紙」は降臨した・・・。いや「神」は降臨した・・・。

俺は個室内で下半身を露出した格好で「神」から「紙」を受け取った・・・。

そしてドアの向こうの見えない「神」に下半身露出状態で深くお辞儀をした。

「ありがとうございました・・・助かりました・・・」

すると、ドアの向こうの「神」はこう言った・・・

「おめでとうございます・・・」と、確かに言った。

そう言われたら俺も下半身露出状態でこう言うしかなかった・・・

「あけましておめでとうございます・・・よいお年を・・・」

ちなみに今年は、家でゆっくり過ごす予定だ・・・。

どうぞ2009年も、よろしくお願い致します。

なお、食事中に読まれた方には、お詫び申し上げます・・・。