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オルガ・トカルチュクはポーランドの女流作家です。
この作品は、自身をモデルにしたと思われる女性の旅の記録と、人体のパーツ、とくに人体模型に関するエピソードなど、116の断章からなる「物語」です。帯の惹句にはこうあります。
わたし/人体/世界へ向かって――
116の〈旅〉のエピソードが編み上げる、
探求と発見のめくるめく物語。
『昼の家、夜の家』の作家が到達した
斬新な「紀行文学」
人体のパーツに関する博物学的興味が断章群をつなぐ役割を果たしているのですが、同じように博物誌的指向の強い小川洋子の作品(たとえば『薬指の標本』)とは印象がずいぶん異なります。
小川洋子の作品が博物館の展示室のような無機的な場所から物語を紡ぎ出していくのに対し、トカルチュクは物語を解体し、細分化していくように感じられます。
実はこの作品のような断章形式の小説が好きで、見つけるたびに買ってぽつぽつと読んでいいるのですが、トカルチュクによると、断章形式は「きわけて中欧的」なのだそうです。
ここでいう中欧とは西欧とロシア(ソ連)との間という意味で、日本でいう東欧のイメージに近いようです。
この発言にはなるほどと思う反面、そうかなと思うところもあります。
下の写真は私の本棚の一部です。
断章形式の小説で私がまず思い浮かべるのが、中央部分に4冊並んでいるW.G.ゼーバルトです(もう1冊『カンポ・サント』があるのですが、まだ読んでいないので別の場所に置いてあります)。
ゼーバルトはドイツの作家、昔の区分でいうと西ドイツの生まれです。
その隣りのキアラ・カーソンの『琥珀捕り』『シャムロック・ティー』も断章形式の作品ですが、カーソンは北アイルランドの生まれです。小説は英語で書かれていますが、ゲール語の歌い手でもあるそうです。
トカルチュクの作品の右にあるキルメン・ウリベはバスク語の作家。この『ビルバオ―ニューヨーク―ビルバオ』も断章的な作品です。
その右の『もうひとつの街』はミハル・アイヴァスというチェコの作家の小説ですが、断章形式ではありません。ちなみに、その4冊右の『死者の百科事典』の作者ダニロ・キシュはユーゴスラビアの作家です。
その右のブローティガンは言うまでもなくアメリカの作家ですが、彼の作品も断章的といえるかもしれません。