「えっと、ここかな…」

目指す学校の最寄り駅で降りて、歩いて5分、ようやく今日の目的地に到着した。校門から入り、入り口を探す。案内役の人が何人か立っていて、校舎の昇降口へ案内された。

「おはようございます。ここで靴を履き替えてください!」

若い女性のスタッフに言われて、私は履いていたローファーを脱いだ。まだ集合まで時間があるからか、人気は少ない。

「脱いだ靴は袋に入れてもらって…。内履きはお持ちですか?」

私はその質問に首をふる。

「申し訳ありませんが、スリッパの貸し出しはできなくて…」

「あ、大丈夫です!すみません、このままで行くので…」

「そうですか?でしたらけがにはお気をつけて!教室は校舎の3階です。スタッフがいるので、わからないことがあれば聞いてくださいね」

「はい、ありがとうございます」

私はスタッフの人にお辞儀をすると、白いニーハイソックスをはいた足を踏み出した。歴史ある学校だからか、そんなに新しいという感じではない。クリーム色のタイルが敷いてある床はところどころ黒くなっていて、大きなホコリが落ちているのも目に入る。

 5月の休日。今日私がやってきたのは、家から列車を乗り継いで1時間30分かかる、とある高校だ。そこに大学の先生がやってきて、高校生をメインに、特別授業が実施されることになっていた。文系の授業と理系の授業とあって、私は進学も考えて文系の授業を選択している。内容は、大正時代から平成時代への文学作品の変遷と相違点を考えていくというものなど。難しそうだけれど、文学好きな私にとってはかなり興味深い内容だった。

 私にはもう一つ、やりたいことを心に秘めていた。実はこの特別授業は、私の住む都市でも開催されていた。けれど私はあえて、家から遠い会場を選んでいた。そのわけは今の私の足元にある。ナイロン製のニーハイソックスのままで、私はペタペタと、初めて来た学校の中を歩く。階段を3階まで上って、そこにいるスタッフの人に導かれて、文系の授業が行われる教室へ到着した。すでに3人がいて、みんな一人で来ているようだった。それぞれ静かに、本を読んだりスマホを触ったりしている。席は自由のようで、私は窓ぎわの真ん中あたりに着席した。ちらっと3人の足元をみてみると、みんな、学校のものらしい上履きや、スリッパを履いていた。4人の中で、上履きを履いていないのは私だけ。まだサンプル数は少ないけれど、内心かなりドキドキしていた。

 今日の特別授業に上履きがいることはわかっていた。案内書にも載っていたし、確認メールにも念押しして書いてあった。それなのに、私は上履きを忘れた、いや、あえて持ってこなかった。荷物がかさばるからとか、よさげな上履きがなかったからではなく、私は「忘れたくて、忘れた」のだ。席に着くと私はニーソの足の裏を、イスの下から出して確認してみた。思ったほどひどい汚れではないものの、灰色に、私の足の形が浮かび上がってきていた。普段の学校と違って教室移動などはないし、時間も、午前中の3時間だけだけれど、靴下だけで過ごすことのできるいい機会だった。

 普段学校では、私は目立たない、大人しい生徒だと思う。成績はそこそこで、提出物などはちゃんと出す。服装も着崩すことはせず、普通は白のハイソックスを履いている。ニーソなんて学校に履いていったら即没収、反省文、という流れになってしまうだろう。しかし今日は、知り合いも誰もいない場所だし、校則にうるさい先生も風紀委員もいない。気持ち、スカート丈もいつもより短めにしてある。このほうがニーソを履いた時にかわいく見えるからだ。結構そこの研究はやっていると自負している。白のニーソを選んだのはその履き心地がいいのと、白だと汚れが目立つから。そして、上履きを履かずに歩いた時の気持ちよさが、綿のものより明らかに違うからだ。つるつると滑る感じが、私にとってはベストなソックスだった。汚れ方については、以前紺色のソックスでおなじようなことをしたけれど、少し白っぽくなるだけで、成果(?)がわかりづらかったのだ。普段から白いソックスを履いているのも、同じような理由である。私は思い立ったら人目を盗んでは普段の学校でも靴下歩きをやっていた。

 私は足を戻すと、ドキドキする心を静めて、トイレへと立った。まだ人の少ないうちに、できることをやっておこうと思っていた。ペタペタと廊下に出ると、トイレの表示はわかりやすくされていた。ドキドキしながらそこへ向かうと、校舎の感じと比べると幾分か綺麗なトイレがあった。ここだけリフォームしたのだろうか。

「スリッパはあるんだ…!」

手洗い場とトイレの個室部分の間には、掃除のためか段差があって、トイレ部分にはスリッパが設置されていた。内心ほっとしたものの、私は一度外に出てまだ周囲に人気がないことを確認すると、そこに綺麗に並べられたスリッパを飛び越えて、白いニーソのままトイレのタイルの床に足を踏みいれた。目で見た感じ、濡れている部分はなく、私は足の裏全体を床につけてみる。廊下とは違い、よりひんやりとした石のタイル。私はそのまま個室に入ると、洋式の便器に腰かけ、ドキドキする心を抑えて無事に用を足す。手洗い場の床も、まだ誰も触っていないからか濡れてはおらず、ニーソは濡れることなくトイレを後にした。自分の学校じゃとてもこんなことはできなくて、一人とても興奮していた。

 教室に戻ると何人か生徒が増えていて、中には小学生の女の子もいた。私服姿で、ちょこんと大きめのイスに座っている。その後は周りに来る生徒たちも増えてきて、集合予定の10分前にはほとんどの席が埋まっていた。少しだけ期待しながらあたりをうかがっていたけれど、誰もが上履きやスリッパを履いていて、私の周りでは、上履きのない生徒は見る限り私だけだった。かなり恥ずかしさを感じるけれど、知り合いが誰もいないことを意識して、他人の目は気にしないようにする。大丈夫、誰も気にしていないはず…!

 集合時刻の5分前になって、ばたばたと空いていた私の横の席に一人の生徒がやってきた。本を読んでいたせいで目線が下を向いていたため、自然とその生徒の足元に目が行く。私はそれを見てごぐりと息をのんだ。私と同じで、上履きを何も履いていなかった。水色の、これはスニーカーソックスかな、それだけで席に座っていた。急いでここまで来たのか、少しだけ息が上がっている。ちらと顔を見てみると、制服はよくわからないけれどどこかの私立だろう、半そでのセーラー服。髪は黒いショートで、すらっとした顔立ちに、スタイルもいい。女子人気が高そうな女の子だった。彼女は上履きのない足を机の前に伸ばして、リュックからノートと筆記具を出していた。私も来たときから気づいていたけれど、この学校の机には、いわゆる”足置き棒”が付いていなかった。よく机の前や横についているあれだ。新しいタイプのようで、そのせいで私はニーソの足を置く場所がなかなか定まらなかった。今も椅子の下で後ろ向きに組んでいる。後ろの生徒には足の裏が見えてしまうけれど、それもいいなと思っていた。

 私は自分が靴下歩きをするのも、誰か、特に女の子が靴下歩きをしているのを見るのも好きだった。かわいい子がそれをしているともうたまらない。だから隣の子が上履きを履かずに座っているのを見ると、そちらにばかり目が行ってしまう。背が高いせいか、足は机の前に伸ばされたままで、水色のスニソに包まれた足の指がくね、くねと、先生の説明に合わせて動いている。時間になったようで、いよいよ特別授業がはじまった。今日のメインはあくまでこれなので、私は頭を切り替えて、ノートを開いて準備をした。

 大きな動きは、2コマ目の授業が始まって10分ほど経ったときにおこった。授業は1時間区切りで、途中10分休憩があった。隣の女の子は、1コマ目が終わった後の休憩で席を立った。友達と話すのかなと思ったけれど(同じ制服の子が何人かいたので)、そうではなく、どうやらトイレに行ってきたらしかった。戻ってから席に着くと、再び足を伸ばして1コマ目と同じ姿勢になる。相変わらず、足の指はくねくねと動いている。重ねられた足のうち左足の裏が少しだけ見えていて、水色がグレーになっているのが見えて、ドキドキした。話しかけてみたい気はするけれど、どう声をかけていいかもわからず、そのまま2コマ目が始まった。授業は期待通り興味深くて、これだけでも来た意味は十分にあると思う。

 そして2コマ目が始まって10分ほどが経ち、先生の説明がひと段落したところで、隣の彼女に動きがあった。それまで伸ばしていた足を椅子の下に持ってくる。そしてその子は足元に手を伸ばし、右足、左足と、スニソを脱いでしまったではないか。脱いだスニソは机の下で丸めると、靴を入れていた袋にぽいと投げ入れた。素足になった彼女は恥ずかしがる様子もなく、落ち着いた様子で、その素足を再び机の前に伸ばしてしまった。スニソの時も強調されていたスラリとした脚、それが素足になったことでさらに強調された気がする。私の前には男子もいるのに、恥ずかしかったりしないのかなと彼女の方をちらちらと見てしまう。心なしか、頬が少し赤くなっているような…。それに、スニソの時はくねくねと動かしていた足の指も、動きを止めて、ぎゅっと丸まっている時間が多かった。

 ドキドキの2コマ目が終わると、いよいよ次が最後のコマだ。私はもう一度トイレに立つ。トイレは何か所かあるようだけれど、教室から一番近く、私が朝一番に行ったところは行列ができていて、私はもう少し足を伸ばして別のトイレに行くことにした。廊下の端っこにあるそのトイレは、まだリフォームがされていないのか、古さを感じた。そこにも何人か生徒がいて、幸い専用スリッパも設置されていたので、私はそれを履いて用を足した。人の目がある中でニーソのままトイレに入るのは、さすがにちょっと気が引けた。スリッパを脱いで、手洗い場で手を洗っていると、足元がじんわりするのを感じた。どうやら多くの生徒が手を洗ったせいで、水滴があちこち飛んでいるらしかった。このトイレの手洗い場もスリッパエリアとは別なので、ニーソの足裏は両足ともじんわりと濡れてしまった。この感触も、私は結構好きだ。気にせずそのまま、ペタペタとトイレを出ると、教室に戻って席に着く。意外と時間はぎりぎりだったようで、すぐに授業が始まった。隣の彼女ははじめ、素足の親指と人差し指で、机の足をぎゅっとつかんでいて、とてもかわいかった。おそらく、さっきトイレに立った際、彼女もスニソが濡れてしまったのだろう。それで気持ち悪くなって脱いだのではないか、と考えてみる。私はというと、じめじめするニーソを、足をくねくねさせてその感触を楽しんでいた。脱ぐのはもったいないし、それはちょっと恥ずかしい。もうこの時間で終わってしまうのが惜しくて仕方ない。午後までたっぷり、靴下生活を楽しみたかったな。授業が終わるころには、彼女の足はまた机の前に伸ばされて、素足の指がくねくねと動いていた。先生が出ていくと、早くも解散になる。スタッフの人が来て、忘れ物がないように帰るよう言われると、生徒たちはめいめい教室を出ていった。私は隣の彼女の後に出たくて少しの間スマホを確認するふりをして待っていると、やがて彼女は素足のまま席を立った。そしてペタペタと教室を出ていく。私もカバンを持って、ニーソのままあとに続く。さっき濡れたところはまだ乾いていないけれど、仕方ない。

 私はどうやら靴下歩きだけでなく、女の子が素足のまま歩く姿というのも好きらしい。あまりそういう場面を見たことがなかったから気づかなかったけれど、中学生時代を思い出すと、裸足で体育をする同じクラスの女子を見て、ドキドキしていた気もする。素足の彼女と一定の距離を取って、入ってきた昇降口へ向かう。ほかのクラスも同時に終わったからか結構な混雑で、私は何度かニーソの足を上履きやスリッパで踏まれてしまった。痛いけど、それも気持ちいい。昇降口に着いて、素足の彼女を探す。あ、いた。裸足のまま校舎の外に出て、ゆっくり靴を履いていた。ローファーではなく、スポーツスニーカーを履いてきていたようで、袋からそれを取り出すと、足の裏を手で軽く払い、素足をそのままスニーカーへ突っ込んだではないか。履いていたスニソはスカートのポケットに入れて、かかとを整えると、友達を見つけたようでそちらへ走っていってしまった。

 私は外との段差でローファーを取り出すと、先程の人ごみのせいで甲の部分も黒っぽい汚れついたニーソをそのまま突っ込んだ。このまま家に帰る予定だったので問題はない。外に出てみると、朝と比べて気温が高く、日差しも強くなっていた。夏が近づいているのを感じる。太ももの上まで隠れるニーソだと少し暑く感じる。人の流れに沿って校門に向かっていると、ちょんちょんと肩をつつかれた。振り返ると、さっきまで私がマークしていた、素足の彼女が立っていた。あれ、見てたの、気づかれた…?

 

つづく