「あ、サヤちゃんだー、おはよう!」

「おはよー」

その声を聴いて、僕は隣に立つ友達と話しながら、教室の入り口の方に目をやった。クラスのファッションリーダー、サヤちゃんが登校したところだった。あの日以来、サヤちゃんは靴下を履いたコーデだったけれど、素足をまねた女子が毎日何人かいて、僕は毎日ドキドキしまくりだった。でもやはり、サヤちゃんの素足が一番興奮するようで、彼女のコーデを毎日楽しみにしていた。もちろん、コーデ紹介動画もチェック済みだ。

「今日も夏っぽくてかわいいね!」

「あれ、今日も靴下履いてないの?」

その会話を聴いて、僕はもうそちらにしか目が向かなくなってしまった。幸い、話も終わったので友達は自分の席に戻り、サヤちゃんが僕の前の席に着くのを見ることができた。もうすっかりみんな夏の格好で、ほとんどが半そでだ。

「ううん、今日はスニーカーを履いてきたから、スニソだよー」

「あ、ほんとだー」

今日のサヤちゃんのコーデは、女子に人気のブランド物の半そでTシャツに、ショートパンツ、足元は、水色のスニーカーソックス。足首にはアンクレットを付けていた。ああ、残念…。この前のワンピースは”清楚系”だったけれど、今回は”スポーツ系”だって動画で紹介していたっけな。スニーカーといってるけれど、どんな靴を履いてきたんだろう。気になるな。

 今日は他に、素足で上履きを履いている女子がクラスに合わせて3人。男子はみんな靴下を履いているので、やはり以前素足に上履きをやってのけたサヤちゃんの影響が大きいのだろう。残念ながら、今の授業中の僕の席からは、足元が見えるのはサヤちゃんだけ。ちょっと無理をするともう一人捕捉することはできるけれど、そっちに気が行ってサヤちゃんをおろそかにはできない。素足で上履きを履くのって低学年のころは元気な男子が多かったように思うけれど、それをファッションの一部にしてしまったサヤちゃんの功績はかなり大きいだろう。この様子だと、今年の夏はかなり期待できそうだった。またサヤちゃんの素足履きを見られないかな。

「今日はようやくプール開きです!みんな水泳道具は持ってきましたか?」

「はーい!」

「もちろん!」

朝の会が始まって、先生が楽しそうに今日の連絡事項を伝える。そう、今日の一大イベントは、今年初めてのプールの授業があることだろう。暑い中、冷たい水に入るのは気持ちいいんだけれど、僕は泳ぎが苦手なので、水泳の授業はあまり好きではなかった。ただ、授業後の時間は好きだ。だって、靴下を履かない子が増えるから。これから楽しみな日が増えた。

 サヤちゃんはこの前素足履きをしてくれた日以来、明らかに上履きを脱ぐ回数が増えていた。靴下を履いている日も積極的に上履きを脱いで、靴下に包まれた足をくねくねと動かしていた。今日も、2時間目の授業の途中から、上履きを完全に脱いで靴下だけになると、イスの下で組んだり机の棒に乗せたりさせていた。これはこれでドキドキする。

 3時間目が終わると、つぎはいよいよプールの時間。授業が終わった途端、女子はプールバッグを持って教室を出ていく。サヤちゃんも、上履きに足先を突っ込んで、手を使ってかかとまで履きなおすと、友達と一緒に教室を出ていった。着替える場所は、男子が教室、女子がプール横の更衣室となっている。4年生までは同じ教室で着替えていたけれど、さすがに6年生なのでそれは難しいだろう。

 プールの授業は2クラス合同で行われる。男子と女子はそれぞれプールのあちら側とこちら側で分かれて授業するため、遠めでしかサヤちゃんたちの様子は見られない。けれど、スクール水着を着て、髪をプール帽に入れたサヤちゃんもかわいかった。

 プールの授業が終わったら給食の時間。今週は当番ではないので、いそいそと給食服を着て給食を取り行く当番の人たちを見ながら教室でゆっくりしていると、やや遅れてサヤちゃんたちが帰ってきた。すでに机は移動されていて、サヤちゃんの机は僕のグループの前にあるグループに置かれてある。横目でサヤちゃんの様子をうかがうと、その足元に変化があった。プールの授業前には履いていた水色のスニーカーソックスを、今は履いていないようだったのだ。一瞬のことだったのではっきりとはわからなかったけれど、給食を食べ終えて掃除の時間になったとき、席を立ったサヤちゃんを見ると、やはりソックスを履かずに、素足で上履きを履いていた。プールで脱いで、その後靴下を履かずに戻っていたのだ。僕は心の中でガッツポーズをして自分の掃除場所へ向かうのだった。

 以前、サヤちゃんが素足で上履きを履いていた日は、午前中の授業では大きな動きはなかったけれど、今日は気温が高いからか、掃除と昼休みの後の5時間目の授業が始まった途端に動きがあった。授業が始まって数分はそれまで机の下に伸ばされていたサヤちゃんの足が、ささっとイスの下で組まれた。そして右足のつま先を、左足のかかと部分にひっかけて、グイッと下げた。すると、左足の上履きが脱げ、赤くなった素足が顔をのぞかせたではないか。サヤちゃんは左足を完全に上履きから離してしまうと、蒸れを逃しているのか、足の指をくねくねと空中で動かした。上履きはイスの下で横向きに置かれている。そしてあらわになった左足のつま先を今度は右足のかかとに押し当て、こちらも勢いよくグイッと下げると、右足も完全に上履きから離してしまった。右の上履きは、左の上履きに乗っかったまま、サヤちゃんは両足の指をくねくねと盛んに動かしながら、やがて机の前の棒に素足をそのまま乗っけた。僕は授業どころではなくなって、その一部始終をしばらく観察していた。やっぱり、サヤちゃんの靴脱ぎ、別名”シュープレイ”は最高だ…!

 サヤちゃんは結局、その授業の間はもう上履きを履きなおすことはなく、最後の礼をするときも、上履きはイスの下に置いたまま、席を立って床に素足をぺたりとつけて礼をしていた。足の裏が汚れることを、あまり気にしていないのかな?それとも教室の床は家みたいに綺麗だと思っているのかな?休憩時間も上履きを履かず、棒の上に乗せたまま友達と話すサヤちゃんを横目に見つつ、僕はトイレに立った。

 6時間目の国語の時間も、サヤちゃんは上履きに足先を入れたり、足でくるくるさせたりすることはあったけれど、きちんと履きなおすことはなく、そのまま授業は終わった。僕はというと、そんなサヤちゃんのシュープレイにくぎ付けで、授業なんかそっちのけだった。家に帰って今日の分はしっかり勉強しておこう…。

 6時間目が終わると、帰りの会になる。その前に教室の後ろの棚からランドセルを取って帰る準備をしなければならない。サヤちゃんの様子を見ていると、上履きは机の下に置いたまま、裸足で教室後方に向かってくるではないか。ちゅうちょなく、ペタペタとみんなが上履きで歩く教室を歩くサヤちゃん。堂々としてて、みんなも何も言わなくて、こんなにドキドキするのは僕だけなのだろうか。ランドセルを取ったサヤちゃんが再び席に着くと、足の裏をばっちりこちらに向けて座った。今少し教室を歩いただけだけれど、床についていた部分には消しゴムのクズや髪の毛といった細かなゴミが付いていた。

「それでは気を付けて帰ってくださいね。日直さん、号令を」

「きりつ!気を付け、礼」

「さようなら!」

サヤちゃんは結局帰りの会の間も上履きを履きなおすことはなく、礼をするときになって上履きを足で探して、足先だけを入れて立ち上がった。

「サヤちゃん、一緒に帰ろー」

「あ、いいよー」

特にサヤちゃんと仲のいい子が声をかける。彼女も今日は一日、素足に上履きで過ごした女子の一人だ。授業中は足元が全く見えない位置に座っているためその状況がわからないのが悔しい。サヤちゃんは彼女と話ながら、手を使って上履きをきちんと履きなおす。

「そういえば、靴下はどうしたの?」

僕が一番気になることを聞いてくれた。

「あ、プール入った後だから、なんか履くの嫌になってねー、バッグに入れたままなんだ」

そう言ってプールバッグをポンポンと叩くサヤちゃん。やっぱりプールは偉大だ。

「そうだったんだ!確かにプール入ってすぐ靴下履くの、暑いよね」

「うん、それに靴下で締め付けられるのもあんまり好きじゃないんだよね」

「なんかわかる気がする!」

そんなサヤちゃんたちの会話に僕はドッキドキ。やがて二人が教室を出ていくのを確認すると、少し間を開けて僕も靴箱へ向かった。

「あ、たいちくんだー、やっほ!」

サヤちゃんたちとは間を開けてきたつもりだったけれど、靴箱でばったり出会ってしまった。お友達の方はすでに靴を履き替えた後のようで、かかとを留めるタイプのサンダルを履いている。サンダルにランドセルという格好もなかなかイレギュラーでいい。サヤちゃんは上履きを脱いで素足になると、上履きとスニーカーを持ち替えて、そのまま床に置く。ここでぽいと床に投げおかずに、そっと置くところが丁寧でサヤちゃんらしい。そして素足をそのままためらいなく両足ともにスニーカーに突っ込んだではないか。有名ブランドのおしゃれなスニーカー。そこから伸びる素足。おそらくスニーカーソックスで履いても、丈が完全に隠れて見えないと思うが、素足で履くところをばっちり見ていたので妙な安心感を感じる。

「…たいちくん?」

「あ、ごめん!バイバイ、サヤちゃん」

「うん、また明日!あ、そだ、ちょっとちょっと」

僕も靴に履き替えたところで、サヤちゃんが手招きをする。友達がなんだろう、という顔で待っているその前で、サヤちゃんは僕の耳に顔を近づけた。

「明日は、スニーカーとサンダル、どっちがいいと思う?」

そうこっそりつぶやくサヤちゃん。なんで僕にそれを…?一瞬わけがわからなくなったけれど、なんとか冷静さを取り戻して、

「さ、サンダルが、いいかな…」

それだけ伝えた。サヤちゃんはそれを聞くと、パッと僕から離れて、

「ありがと!じゃあね!」

大きく手を振って帰っていった。額から落ちる汗は、暑さからか今の緊張からか、僕には判別できなかった。

 

つづく