「久しぶり、東戸さん!なんか、焼けた??」

「久しぶり〜。うーん、おばあちゃんちに行って、お散歩とかしてたから、ちょっと日焼けしたかも」
今日は8月のお盆休みが開けて少し経った20日。私たちの通う学校の登校日だった。他の学校がどうなっているかよくわからないけれど、夏休みなのに部活以外で学校に行かなきゃならないなんてとても面倒に思えて、朝から憂鬱な気分で登校してきた。けれど、教室に着いて、友達や東戸さんと顔を合わせると、そんな気持ちも吹き飛んで、久々の再会を楽しんでいた。
「えっと…東戸さん、上履きは…?」
そしてやっぱり気になるのは東戸さんの足下。だいたい想像はできていたけれど、普段通り(?)東戸さんは裸足で床に立っていた。終業式の日まではかろうじて履いていた上履きすら、今日は履いてない。完全な裸足。
「あー、終業式の日に持って帰って、今日持ってくるの忘れちゃったんだ。家出て少しして気づいたんだけど、まあ、すぐに帰れるし、いいかなって」
普通、上履きを忘れたらもっと悲しそうだったり恥ずかしそうになるものだと思うんだけれど、東戸さんは逆に嬉しそうに頬を紅潮させている。私も、裸足の東戸さんをみてやはり嬉しかった。ここでなんらかの気持ちの変化から、上履きに靴下まで履いて来られたら、こっちの方が悲しくなってしまっていただろう。
「東戸さんらしいね。怪我だけは気をつけて!」
「うん、もちろん!」
東戸さんが席につくのとほぼ同時に先生が入ってきた。今日の流れは、今日が締め切りだった分の宿題の提出と、体育館での全体集会、大掃除、簡単なホームルーム。午前中で放課になって、帰宅か部活、という感じ。放課後は東戸さんとどこかに行きたいな。
「はい、みんな揃っていて先生はとても嬉しいです。…それでは、宿題を集めまーす!列のいちばん後ろの人、集めて来て!」
みんなうげーとかうわーとか言いながらも、めいめいやった宿題冊子を提出している。東戸さんと私は列の最後尾なので、みんなの分の冊子を集めて持っていく。
「はい、ありがとう。・・・東戸さん、どうして裸足なの??」
宿題を提出した東戸さんに、先生が気がついた。そりゃ、1人だけ裸足だったら気になるよね…。クラスのみんなをざっと見てみても、数人、上履きを忘れたのか、靴下のままの人がいるけど、裸足なのは東戸さんだけ。
「あー、上履きを忘れちゃいまして…えへへ」
「靴下は??」
「履いて来てないです」
「そうなの…。今度は忘れないように気をつけてね!」
「はーい、気をつけまーす」
びしっと敬礼のポーズをとって、そのまま席に座る東戸さん。今の一件でみんな彼女の裸足に注目していたけれど、すぐにその雰囲気も解けていった。7月の終業式前はほとんど靴下を履かずに過ごしていた東戸さんだったので、みんなはすでに慣れているらしい。
体育館への移動は、いつも通り、クラスごとに出席番号順になっていく。私は東戸さんのすぐ後ろ。
「ねえねえ、西野さんって髪切った?」
「え?うん!8月の最初に!よく気づいたね」
「ふふふー」
そんな会話を楽しみながら、渡り廊下を通って体育館へ。他の生徒を見ても、やっぱり裸足なのは男女通して彼女だけだ。教室はクーラーが効いていて涼しかったものの、体育館にはそれがなく、窓を開けて換気してはあるが、とても暑かった。座っているだけで汗が額や首筋を伝う。
「暑いねえ。はやく終わらないかなあ」
女の子座りになって足の裏をこちらに向ける東戸さん。スカートで隠すこともしていないので、いつか見たのと同じように、埃で真っ黒になった足裏がばっちり見えている。夏休みで埃がたまっていたのか、いつにも増して汚れているように見える。今日も、最後の足の裏おそうじ、捗るな!
全体集会は30分程度で終わり、途中、スカートをパタパタさせる東戸さんにハラハラしながらも、無事に教室へと帰ってきた。ここからは少し休憩をとって、大掃除だ。担当は出席番号順で、私と東戸さん、そして他の女子2人が昇降口となっていた。
「昇降口掃除って初めてだね?」
「うん、ちゃっちゃと終わらせちゃおう!」
「あ、西野さん、東戸さん、掃除いこー」
同じ掃除班になったのはクラスメイトの根子さんと野宮さん。2人とも、苗字からネコちゃん、ミャーちゃん、と呼ばれている。ネコちゃんは黒髪をふたつ結びにしている、ちっちゃくてかわいい女の子。背は東戸さんより3センチくらい低い。ちなみに、家庭科部。となりのミャーちゃんは身長150センチくらいで、栗色のショートヘア。目がクリクリしててみんなと親しげに話す女の子。ちなみに、女子バスケ部だ。そんなネコちゃんは、先程私が見つけた上履きを忘れた子の1人。足首の少し上までの、短めの白ソックスだけでこの時間まで過ごしていた。体育館では真後ろにいたんだけれど、東戸さんの裸足の方が気になってそちらの観察ができていなかった…!
 ネコちゃんは靴下のままなのをそんなに気にしている様子はなく、足の裏全体をつけてペタペタと歩いている。そのため、廊下を歩く時にちらと見えた足の裏は全体的に黒っぽくなっていた。昇降口への道すがら、ミャーちゃんは東戸さんのことが気になったらしく、
「ねね、東戸さん、なんで裸足なの?夏っぽいけど!」
私が始めのうちなかなか聞きにくかったことをさらっと…!
「あー、これ??上履き忘れちゃってさー」
「そうなんだ!ネコと一緒やね!」
話を振られたネコちゃんは、自分の足下に視線を向けて、裸足の東戸さんに視線を向けて、
「でもでも、靴下まで脱いじゃう必要ある??」
「靴下、履いて来てないんだー。暑いしねー」
「え、そうなの?!すごっ」
「東戸さんってなんか意外だね!」
東戸さんは全く気にしていない様子で、質問に答えていく。2人もそんな東戸さんに引くこともなく、その後は夏休みの部活やお盆休みについての話で盛り上がった。
 昇降口掃除は、箒でたまった砂や埃を掃いたり、モップで昇降口周辺の床を拭いたりする。私と東戸さんはその砂を掃く係、ミャーちゃんネコちゃんはモップ係になった。昇降口は半分校内、半分校外みたいなもので、土足エリアと上履きエリアが混ざっている。私は上履きを履いているからそのままでいいが、裸足の東戸さんはどうするのだろうと思っていたら、期待通り、裸足のままで土足エリアの床も箒で掃除をしてくれた。
「すごいね、砂がいっぱいたまってるよ」
靴箱前のすのこをいったん上げると、校庭からの砂がたまっているのがよくわかる。箒で掃いていくと、端っこに到達する頃には砂の重みを感じるくらいだ。
「そうだねえ、すごくザラザラする〜」
そう言って、たまった砂に足を突っ込む東戸さん。小さな子どものように楽しそうにはしゃいでいる。
「もー、遊んでないで、掃除してよー」
「はーい」
やがて全ての学年の靴箱前を掃除し終わると、裸足のまま外に出ていた東戸さんが何やら手招きをしていた。
「どうしたの?」
「今からこれでちょっと足洗ってもいいかな??」
そう言って指さすのは、昇降口横の足洗い場。よく部活生がそこで水を汲んだりタオルを洗ったりしている。
「え、今から?」
「うん、掃除してたら砂まみれになっちゃってさー」
そう言っていつものように足を差し出す東戸さん。足の甲にも砂がかかって、日焼けしてた足が白っぽくなっているのがわかる。
「しょうがないなあ。まだ時間あるし。ちゃっちゃと洗ってね!」
「やったあ」
そう言って蛇口をひねって足を差し出す東戸さん。気持ち良さそうだ。私は何かタオル的なものがないか探していると、傘立てのところにキレイめの雑巾を見つけて、それを準備した。
「おまたせ〜」
「はい、拭いたげるから、そこに座って」
「え、いいの?やったあ」
そう言って、靴箱にある椅子に座る東戸さん。いつもは汚れた足をウエットティッシュで拭くところだが、今回はきれいな足がそこにある。水で濡れた裸足を、雑巾で包む。その瞬間、
「ひゃうん」
と小さく声を上げる東戸さん。それを聞いて、私もドキドキ…。足をかえて、反対も。
「う、うううう、く、くすぐったいよお…」
「ほんとに弱いんだから…。はい、終わったよ!」
「わーい、ありがとう、西野さん!」
そう言ってきれいな足を再び床につける東戸さん。また教室に戻った頃には、真っ黒になっていることだろう。
「あ、2人は掃除終わった?」
私たちが校舎内に入ると、ミャーちゃんたちがちょうどモップを片付けていた。
「うん、終わったよ!2人も?」
「ばっちりだよ!」
「ちょっと靴下濡れちゃったけど…」
ネコちゃんが落ち込んだ様子でそう呟くと、東戸さんがパアッとした表情で、
「じゃあ裸足になっちゃいなよ〜」
と誘ってみた。
「え、えー、裸足…?うーん、ちょっと、それはいい、かなあ…」
しかしやんわりと断られてしまって、しゅんとなる。私も残念。けっこうなチャンスだと思ったのに…!
その後、教室に戻る途中、階段を上がるネコちゃんの足の裏がばっちり見えた。かわいい彼女からは想像できないくらいの真っ黒な汚れに、またドキドキ・・・。裸足で真っ黒、もいいけど、白い靴下で真っ黒、もなかなか・・・!
 今日一日の予定がおわって、簡単なホームルームを終え、放課。
「東戸さん、今日はこの後どうする?」
片付けをしている東戸さんに聞いてみると、
「んー、今日は何もないし、家に帰るかなあ」
「そっかー、…じゃあさ、今日、うち来ない?」
「え、西野さんの家?」
思えば、東戸さんの家には(前まで)行ったことがあったけれど、彼女を誘ったことはなかった。せっかくの夏休みだし、家でおしゃべりとかしたいな…!
「いいよ〜。でも、いったん着替えてからでもいい??楽なかっこで行きたくて」
「もちろん!なんなら、家の前で待ってるよ!ちょっと道が難しいから」
「おっけ〜。じゃあはやく帰ろう!」
東戸さんがうちに来る!しかも私服!楽しい一日になりそうだ。
 
つづく