とあるからりと晴れたある日、俺は家の近くにある公園のベンチで昼寝をしていた。ポカポカで、とてもいい気持ちで眠っていたところ、突然真横になにかがボテッと落ちてきた。うすら目を開けてそちらを見やると、一足の靴が。そして反対からは少女のはしゃぐ声が聞こえてきた。
「サヤ、ほらもうかたっぽも!」
「オーケー、いっくよー…ほい!」
彼女の足から放り投げられたそれは斜めにそれて、公園を囲む森の中へ入っていった。
「むっちゃ飛んだねー、どのくらいだろ?」
「じゃあ次はナノの番だよ!」
そういうと、サヤと呼ばれる少女は乗っていたブランコからぴょんとおりた。小学3年生くらいだろうか。紺色のジャンパーにベージュのミニスカート、黒いタイツにスニーカーを履いていた。流行りの瞬足だろうか。いまその靴は両足とも飛ばされてしまっている。彼女は砂が敷き詰められた公園を、黒タイツのままペタペタと歩いて靴を拾いに来た。片足を拾うと、それを履くことなく手に持ち、もう片方が飛んでいった森の方へ。
「サヤー、靴あった?」
「うーん、あ、あったよー」
森の中から出てきたサヤと呼ばれる少女は、靴を手に持ったままブランコの方へ。地面に置くと、ナノと呼ばれる少女の靴飛ばしを近くで見守る。こちらの方は、黒いフード付きパーカーに、デニムの長ズボン、白いソックスにスニーカー。小学生女子にしてはおしゃれな紐で縛るタイプのスニーカーだ。こちらの靴飛ばしはあまり飛ばず、ブランコから数メートルの地点に両足とも着地した。ナノの方も、ソックスが砂まみれになることも厭わず、ペタペタと歩いて靴を取りに行く。
「今回は私の勝ちだね!1たい0!」
「くっそー、次は勝つ!」
「じゃあ次、ナノからね!」
「いっくぞー」
そう言うと、砂まみれのソックスの裏をはたくこともなく、ナノはスニーカーをかかとを踏みつぶしたまま履くと、ブランコに乗って立ちこぎをはじめた。今回の結果は、左足はごく近くに落ちたが、右足は俺の寝るベンチの方まで飛んできた。
「やったあ、今度はけっこう飛んだよ!はい、サヤのばんね!」
「ふっふー、次も勝つ!」
ナノは靴を取りに来ることなく、ブランコに座って乗ったままサヤの靴飛ばしを見守る。サヤも砂まみれになったタイツのままでスニーカーをもう一度履くと、右、左と飛ばしていった。飛ばし方がうまいのか、まっすぐに飛距離を伸ばした。右足は再び森の中に突っ込む。
「うわー、また負けたー!」
「よっしゃー!!」
ナノがブランコから崩れ落ちる。サヤは勝ち誇った顔をして、タイツのままぴょんと地面に降りると、ペタペタと靴のもとに駆け寄った。うしろからナノもとぼとぼと歩み寄り、靴を拾う。サヤは森の中までタイツのまま探しに行き、やがて戻ってきた。
「2たい0だね!今日はサーのかち!」
2人は靴を柵のところにそろえておくと、ブランコにのってこぎ出した。そこからしばらくは女子トークが盛り上がる。白ソックスの足の裏は砂で茶色く、黒タイツの足の裏は逆に白く、足の形が浮かんでいた。俺は眠たげな顔でそんな二人の様子を眺めていた。30分ほど経っただろうか、やがて日が傾いてくると、2人はそれぞれブランコを下りると、靴を手に持ってランドセルを背負った。
「じゃね、サヤちゃん、また明日!」
「うん、ばいばい!」
2人は靴を履くことなく、公園を出ていった。さすがに砂まみれのタイツや靴下で靴を履くのは気が引けたのだろう。俺もそろそろ帰ろうかと、ベンチから飛び降りる。あちこちの家から夕ご飯のいいにおいが漂ってくる。グイッと伸びをしたら、自然とあくびが出てきた。
「クロ~?ごはんだよー」
飼い主の呼ぶ声が聞こえて、俺はテトテトと公園を後にした。
おわり