ミミの手を掴んだまま階段を駆け下りる。降りた先にすぐ出口があった。来たときとは違う、体育館へと続く渡り廊下。そこから外へ飛び出した。そのまま砂に草がはびこったグラウンドの真ん中まで走る。靴がなく二人とも裸足(靴下)だったが、今はそれどころではない。
 やっと息をついてミミを見ると、クスクスと笑っている。
「み、ミミ…?」
「お姉ちゃん、こわがりだなあ。ハダシで外に出てきちゃうなんて」
そう言って、足元を指差す。ミミは甲の部分まで黒く汚れ始めているソックスのままだった。ホコリまみれのそれが、今は砂まみれになろうとしている。私も、我に返って足の裏を見てみると、校内を歩いて真っ黒な足の上に、砂まみれになっていた。ばつが悪くなって、恥ずかしくなった。
「だ、だって…」
「大丈夫だよ、ミミがちゃんとつかまえるから!ほら、戻ろ、お姉ちゃん」
いやいやいや…またあそこいくの?私は嫌だよ…。とか思っていたが、半ば無理矢理ミミに手を引かれ、再び2階から3階に上る階段にきていた。耳をすますと、今も、 ヒョオオオオオ…バンッという音が繰り返し聞こえてくる。
「今度はミミから行くね。ちゃんと付いてきてよ!」
「わ、わかったわよ…」
私はミミの服の袖を掴み、身を隠すようにひたひたと階段を登った。階段の陰から網をぐっと握ってそっと顔を出すミミ。
「どう?!何かいる??」
「うーん、なにもないよ」
そう言って足を踏み出す。私も続いて廊下へ。ここは最上階とあって、廊下は2階ほどザラザラしてはおらず、明るかった。
「お姉ちゃん、きてきて!」
5年生の教室を調べていたミミが私を呼ぶ。入ってみると、窓が少し開いて、風が吹き込んでいた。ヒョオオという音も、風の強さによって聞こえてくる。
「音って、これじゃない?」
「た、たしかに…」
私はほっとしていたが、ミミは不満そう。
「ちぇっ、お化けだと思ったのになあ」
 その後、6年生の教室、視聴覚室を見て、理科室へ。
「なにも出ませんように…」
そっと扉を開けて、足を踏み入れる。理科室は他の教室に比べて、中が綺麗に見える。床も、綺麗に掃除されているっぽい。どうして、ここだけ?
「お姉ちゃん、ここがさいごの部屋じゃない?」
そう言ってミミが指さした先には、「理科実験室」の文字が。
「なんか、物音、しない・・・?」
「・・・ほんとだ」
扉に耳を付けて中の音をうかがうミミ。先程からビンのこすれるカチャカチャという音がかすかに聞こえてくる。今度こそ、本当に・・・?
「お姉ちゃん、せーの、で開けるよ」
「い、いくのー・・・?」
「せーの!」
 
 「・・・お騒がせしました、ほんとうに!」
「いやいや、こちらこそ。どうにも、ここのことが気になってね、年に数回は来てるんだ」
結果的に、そこにいたのは元々ここで先生をしていたおじさんだった。廃校になった後も、理科室の備品の整理にちょくちょく来ていたらしい。
「でも、勝手にここに入っちゃだめだよ。危ないからね」
「はーい、ごめんなさい・・・」
「すいません」
さすがにミミも、少しシュンとしている。
「さ、じゃあ帰ろうか、ミミ」
「うん!」
手をつないで理科室を出ようとすると、
「そういえば、君たちはどんな関係なんだい?」
「あ、いとこ同士です!」
「なるほど。いや、3人とも姉妹みたいでかわいいんだけど、似てるといわれたらそうでもないなって思ってね」
「え・・・?」
「ん?」
涼しい風が私の頬を撫でていった。
 
おわり