動画削除に伴い、その記述を削除しました。ご了承ください。
「ホノカ!違うよ、ここで上げるのは、左手!」
ウミちゃんが言った。また、ダンスが止まる。
「ごめんねえ。いつも私ばっかり・・・」
「いいよ、楽しいし。さ、また最初から!」
「うん!」
私たちは早朝、家の近くの駅前で、ダンスを踊っていた。観客はおらず、私たちの目の前には、一台のカメラが置いてある。私のお父さんから借りた、ライカのカメラ。動画も撮影可能で、画質がすごくいい。その代わり、ダンスも細かいところまで撮られてしまうから、ちょっとのミスも許されない。NGを出していけないと、気をつかうけれど、やっぱりダンスは楽しい。
撮影した動画は、ある世界的な動画サイトに公開する。すでに十数本の私とウミちゃんのダンス動画が投稿されており、結構な再生回数を誇っている。すごい踊り手さんには、全く敵わないけどね。
「じゃあ、テイク18、いきます!」
ウミちゃんがカメラを撮影開始させ、スマートフォンから音楽を流す。私はカメラに背を向けた、最初のポーズで静止。やがて音が聞こえ、ステップを踏み、手を回しながら振り返る。ここから怒涛の連続ステップが続く。でもそれは大丈夫。何回も練習して、体が覚えている。これまでと同じように、足を前後ろ右左・・・ピョンピョン・・・。
「あ!」
「ホノカ!大丈夫?」
またしても私の失敗。ステップに耐えられなかった私のヒールが脱げて前方に飛び、カメラを直撃していた。片足だけソックス姿になったまま、私は呆然と立ちすくむ。
「ごめん!また私・・・」
NG18回目。いつも私が間違えてしまう。振りのミスや、今回のように靴が脱げてしまったり。対照的に、ウミちゃんはいつもカンペキ。私も見習わないと。
この日のダンス衣装は、前日の土曜日にウミちゃんと二人で、ファストファッションのお店で買った、色違いのワンピースに、リボン、靴下専門店で買った、レース付きの白ソックス、それとおそろいのパンプス。足にぴったりサイズを選んだけれど、どうしてもスニーカーと違って脱げやすい。
「どうしても脱げちゃうなあ」
私はソックスのまま歩いて靴の下まで行くと、振り返って、言ってみた。
「いっそ、靴なしで、やっちゃう?」
ウミちゃんは初めて目を丸くしていたが、やがて、にっこり笑って言った。
「うん、それもいいかも。少なくとも、ホノカのNGはもうでないよね?」
「あはははは・・・」
かくして、私とウミちゃんは、履いていたパンプスを脱いでカメラの横に揃えておくと、白ソックスのままで地面の上に立った。タイルの敷かれた駅前広場。日曜の朝方で、まだ人はそれほど多くないけれど、靴を履かないって、ちょっと恥ずかしかった。動画として、ダンスを公開するけれど、面白くなって、いいんじゃないかな?靴は心の綺麗な人にしか、見えません、とか言っちゃったりして。
「じゃあ、このままテイク19、いきますね!」
ウミちゃんが先ほどと同じ操作をして、私の隣に立つ。
「次こそ、成功させよ!」
「うん!がんばる!」
私は一つ深呼吸して、音楽の流れるのを待った。やがれ聞こえる第一音。振り返って、ステップ開始。ソックスだけだから、ちょっと痛いけどやっぱり動きやすい!ソックス足を地面で滑らせ、回って、ジャンプ。いける、私、いけてる!いままでのNGポイントを楽々通過し、いよいよラストのサビ。ここが一番の難関だ。サビの前の休息から、飛び上がって回って、ステップ。
「ぐへ!」
足がもつれた!そのまま倒れこむ私。
「ホノカ!おしい!」
「くっそー!あとちょっとだったのに!」
服を払って、立ち上がる。ソックスは地面の埃やチリを集めて、真っ黒になっている。
「ホノカ、大丈夫?また、最初からだね」
「ほんとごめん、私ばっかり・・・」
「ドンマイ。ちょっと休憩して、始めよっか。あそこの売店、今開いたみたいだよ」
「ほんと?私、あんまん食べたい!」
「はいはい。お金、持ってる?」
「うん、ポケットに入ってる」
「じゃあ、いこうか」
私たちはダンスポイントの反対側にある売店へと入った。開店したばかりで、まだ人もいなくて、しいんとしている。日曜の朝って、みんなおねぼうさん。
「あ、ウミちゃん、あったよ、あんまん!」
「飲み物は、どうする?」
「あ、そうだね、私は・・・、お茶にしよう」
「じゃあ私はコーヒーに」
「ウミちゃんもなにか食べる?」
「私?うーん、じゃあ、ホノカとおなじ、あんまんを」
「わかった!すみません、あと、あんまんふたつ、ください!」
店員のお兄さんは、なにか言いたそうな顔をしながら、ちゃんとにくまんやぴざまんと間違えることなく、あんまんを2個、入れてくれた。お金を払ってお店を出ると、雲に隠れていた朝日が私たちを照らした。
「まぶし!でも、あったかいね」
「うん。っていうか私たち、靴履かずに買い物しちゃってたね・・・」
「靴?」
そういえば、なんかいつもと違うなあと思ってたら、靴脱いでたんだった。すっかり忘れてた!店員さんも、おかしいなって、思ったよね、多分。
「ま、いいか。はやくあんまん食べて、成功させよう!」
「ホノカがNG出さなければ、きっと成功するよね」
「う・・・。がんばります」
それから私たちはやはりテイクを重ね、人の姿が見られるようになった午前10時、34テイク目で、ようやくカンペキな撮影に成功した。その頃にはソックスの足裏には穴が開き、ウミちゃんはとうとうソックスを脱いで踊っていた。前を行く人たちの視線が恥ずかしかったり、足が痛かったりと大変だったけど、二人での満足する作品ができたと思う。
「ウミちゃん、お疲れ様!」
「ホノカも、よく頑張ったね!」
「結局ウミちゃんいつもできるんだもん。もうちょっと間違っていいんだよ?」
「ホノカは間違えないように、頑張ってね」
「はあい」
「さて、どっかで足を洗って、早速投稿しないとね!」
「いつものように、ウミちゃんのおにいちゃんに、頼もうね」
「うん!」
私たちは荷物をまとめると、汗を拭き拭き、おそろいのパンプスを手に持って、1人はソックス、1人は裸足で、駅前広場を後にした。次は、NG、出さないぞ!
おわり