「おいこら、まてえ!!」
「っち、うぜえなあ!」
俺は走りながら、後ろを振り向いた。コンビニのおっさんが、顔を真っ赤にして俺を追いかけている、らしい。だがおっさんは息が上がり、やがて立ち止まった。
俺が万引きをしたのは、これが初めてではない。ただ今日このときだけ、たまたま運悪く、おっさんに見つかってしまったのだ。コンビニの菓子数点を自分の鞄に入れるところを、見られてしまった。それから俺は一目散にそのコンビニを駆け出し、そこからはるか離れた山の上まで、追いかけられてきた。おっさんも執念深かったが、俺の足の速さと持久力には、敵うはずもない。なんたって、中学では陸上部員として、長距離走の大会で優勝したこともあるくらいなのだから。今はもう、走るなんてつまらないことはしていないが、あのとき鍛えた足は、まだ衰えていないようだった。・・・こんなことに使うなんて、あの頃は思ってもいなかっただろうけど。もう高校に入って2年経つ。
高校デビューとして、俺は遊びまくり出した。かろうじて進級はできたものの、成績は下から数えた方が早い。中学ではそうでもなかったのだが。
俺はいつしか、山の頂上付近まで来ていた。山といっても、標高はそれほどでもなく、道がしっかり整備されている。山頂の原っぱに着くと、俺はそこに寝転がった。 疲れた。
しばらくそうしてうとうとしていると、だんだんと意識が遠のいて行き、いつの間にか、気づいた時には、日が傾いていた。やばいと思った俺は、急いで立ち上がり、また、駆け出した。
しかし、方向を間違えていたのだろうか、俺の足元から突然、地面が消えた。
崖から落ちたかと思った。落下はそう長く続かず、数メートル落ちて、俺は背中から地面に着地した。鈍い痛みが身体中を走る。ああ、なんて今日は、ついていないんだ・・・。
俺はそのまま、意識を失った。