そして待ちに待った次の週の金曜日。僕は朝6時半に家を出ると、意気揚々と学校へ向かった。昨日の夜は興奮してぐっすりと眠ることができた。睡眠時間、10時間。僕はどうやら、興奮するといつもよりよく眠れるらしい。
上履きに履き替え、教室へ向かう。田畑さんの靴下姿、どんな感じなんだろう。とっても気になる。気になるよー!
机に座って、ひとり悶々と待ち続けた。教室についたのは7時前で、何者かの、聞きなれない足音が聞こえてきた7時50分まで、なんと長かったことか。別にそんなに早く来る必要はなかったのだけど、朝はなんだか目が冴えてしまい、早く行こうという気になってしまったのだ。
僕はその足音が聞こえて来た時、はっとした。これは以前聞いた、靴下で学校のの廊下を歩く人が出す音!そしてこの時間!これはまさか、本当に・・・!
ガラリとドアの開く音。そして聞こえる、ペタペタという足音。僕はゆっくり、ごく自然に、振り返って、その人物を見た。
紛れもない、僕の思いを寄せる人の、僕を最高に興奮させる光景がそこにあった。
学校のくすんだリノニウムの床に、学校指定の薄い白いハイソックスだけで立つ、田畑瑞紀さん。ちょっと赤らんだほおは、上履きを忘れて靴下だけであるということへの恥ずかしさだろうか。僕が見つめているのに気づくと、田畑さんは、
「おはよう、今日も、早いんだね」
と、あいさつした。それから、顔をうつむかせて、顔を赤くして言った。
「今日、上履き、忘れちゃった・・・。わたし、ドジっちゃった」
そう言って、恥ずかしそうに、少し、笑った。どキューンと来た。僕は目の前にあるいろんな光景に、心臓を激しく鼓動させ、体が熱く熱くなるのを感じながら、なんとか田畑さんとの貴重な会話を続けた。
「おはよう、田畑さん。珍しい、ね、田畑さんが忘れものなんて・・・」
僕のシールのせいだとは、とても言えない。
「うん、先週ね、久しぶりにもって帰ったんだけど、洗ってから家に置いたまま、忘れちゃったんだ」
なんと、立派な理由ができている。シールはそこまで働いてくれるのか。
「そ、そうなんだ・・・。それは、残念だね」
「本当にねえ。でも、仕方ないし、今日は靴下ですごすよ。何かあったら、手伝ってね、鈴木くん」
「うん、わかった」
「ありがとう」
そう言って、田畑さんは顔を赤らめながら、笑った。
生徒はそれからぞくぞくと登校して、田畑さんは友人に上履き忘れについて質問攻めにあっていた。でもその友人たちの、上履きかそっか?の申し入れに、遠慮して借りなかったのは、田畑さんらしいと思った。田畑さんは他人を第一に考えて行動する、優しい人なのだ。だから彼女は人望が厚く、みんなのアイドルなのである。
僕と田畑さんが、今日の日直だった。たまたまだが、二人きりになるチャンスはいくらでもある。そうなるたびに、田畑さんの靴下姿が至近距離で・・・。授業中などは、田畑さんは真横に座っていて、残念ながら足元は見えない。だが姿勢を見ていると、おそらく田畑さんは靴下だけの足をしっかり床につけて、授業を聞いていただろう。
つづく