翌朝、スマホをみてみると早速メールが届いていた。振り込み票だった。表示されたバーコードをコンビニでスキャンしてもらい、代金の税込価格、1080円を振り込めば、1週間以内に届くらしい。ボクはその日のうちにお金を払い、その翌々日には、商品が届いたのだった。学校から帰宅すると、お母さんが渡してくれた。シールが入っていた封筒は至ってふつうのもので、怪しがられることもなかった。ボクはハサミで封を切り、中を覗いた。そこには52円切手大の真っ白な紙が一枚と、取り扱い説明書と紙が入っていた。それと、次回に使える割引券。なんと1枚半額。嬉しい。
ボクは説明書を読んでみた。小さなシールだが、説明書にはたくさんの注意書きがあった。ほとんどは法律での禁止事項らしい。もちろんボクもそんな法に触れるようなことはやるはずがない。

えーと、まずは、

「シールを袋から台紙ごと取り出してください」

そっから書いてある。至極親切だな。

「シールは台紙に貼ったまま、書き込みたいことを同封の下書き用紙に書いてください」

下書き?なんでそんなことが必要なんだろう。まあ、初めてだし、言われたとおりにやってみるか。ボクは封筒を逆さまにして、メモ帳大の紙の束を取り出した。大きさはタテヨコ10センチくらいで、中央部に四角形が描いてある。そうか、この四角形の大きさはシールと同じだ。はみ出さないように、うまく入るように、下書きをするのか。親切だな。

さて、なんて書こう。あんまり大きいものではない方がいいよなあ。あ、まだ説明の続きがあった。

「下書きが終わったら、シールにはボールペンでその内容を書いていただきます。修正できませんので、ご注意ください。修正ペンなどを用いても、このシールには効果がありません」

そうなのか、案外厳しいなあ。

しばらく経って、ボクはやっとのことでシールにお願いごとを書き込むことができた。

「○○県△△町、北中学校2年4組、出席番号34番、田畑瑞紀は、次の週の月曜日、上履きを忘れて一日中靴下で校内を過ごす」

・・・やってしまった。できてしまった。書いてしまった。こんなことを。

説明書にはこうあった。

「書く内容はできるだけ詳細に書いてください。人物名は、世界中でたった1人に限定できるよう、注意してお書きください。名前がない場合、シールは人の肌に触れた時点で消失しますが、反応しません。

例)20XX年に□□県△△市○○学校2年Y組のさんは、次の金曜日に自分とデートをする」

ボクは時々夢にみる。あの瑞紀さんが、上履きを忘れて来る夢を。田畑さんは現在ボクと同じクラスで、隣同士。時々言葉を交わすけれど、ボクには話すのさえもったいないくらいの可愛い子。AK○なんてメじゃないくらい。そんな子が、上履きを忘れてきたら・・・。ボクは諸手をあげて喜ぶだろう。その状況を、ボクは自分で作り出す。・・・まだ半信半疑だけどね。

さて、書いてしまったからには、使わなければならない。・・・貼らなくちゃいけないんだよね、シールだもん。どうやって彼女に貼ろうか。どこにどう貼ればいいんだろう。さりげなくできるものなのか。まあ、貼るとすれば、背中あたりかな。説明書にはこう書いてある。

「シールは、貼りたい対象の人(あなたがシールに名前を書いた人)に、直接貼ってください。シールは貼り付けられると即座に皮膚に吸収され、見えなくなります。その際、自身に貼らないよう、お気をつけください。一部でも人の肌に触れると、シールは触れたその人に吸収されます。もし吸収されたシールに書かれた名前と本人が異なるときは、なにも起こりませんので、ご了承ください。また、シールに人物を指定する表記がない場合も、吸収されますが、何も反応しませんのでご注意ください。もし使用者の不注意により誤って吸収されたとしてもこちらでは責任を負えませんので、ご注意ください」

ほんとうに一体どんな仕組みになっているんだろう。でも、ちょっとでも触れたらいいのか。自分には触れないように・・・。そして、書いた名前とは違う人にも触れないように。よし、やろう。明日。ボクはシールを丁寧に一緒に入っていた、シール入れに袋にいれた。




つづく