「お父さん、どうしよう!」
「おかえり、ヒナ」
帰宅すると、お父さんは引っ越しと同時に買い換えた新しいソファに寝っ転がり、ペットのラブラドール・レトリバー、シュン太を腰に載せて、テレビを観ていた。再放送のドラマだ。
「ハダシ教育、4月からなんだって!」
あたしは叫んだ。
「なんだ、どこできいたんだ、そんなの。おれは知らないぞ、そんな話」
「あっちの公園でね、女の子が何人か遊んでたの。それで、聞いてみたら・・・」
「なんだ、もう友達ができたのか。よかったなあ」
「よかったよお・・・じゃなくて!どうしよう、お父さん!」
「まあ落ちつけ。あの、ほら、冷蔵庫にプリンが入ってるぞ。ママが美味しそうなケーキを売るパン屋さんを見つけて、プリンを買ってきたんだ」
そのお母さんはいま、ご近所周りで忙しい。
「パン屋のプリンって、美味しいのかな?」
「ああ、さっき食ったけど、トロおりとしてて、うまかった。とくにカラメルソースっていうのか?それが絶品だ」
「じゃああたしも食べる!って、話そらすなあ!」

 そしてなんの逃げ道も考えつかないまま、始業式の日が来てしまった。学年は一つ上がるけれど、各学年に1クラスずつしかないここ春の風小学校では、クラス丸ごと持ち上がりだ。その友達の輪に入れるか・・・。この前の公園でのことを思い出すと、おそらく大丈夫だろう。だけど、ちょっと心配。
 靴箱で上履きに履き替える。周りをみると、やはり、みんな、1年生も4年生も、男子も女子も、履いて来たサンダルを脱ぐと、ハダシのまま校舎内へと駆け込んで行く。靴下を履いて、さらに上履きまで、というのは、みたところあたしだけだった。
 お父さんにしつこく何度も言われたとおり、まずは職員室へと向かう。担任は若い男の先生だった。色黒で、顔の彫りが深い。名前は片岡義友先生。きっとスポーツ得意なんだろうなと思いながら、自己紹介をする。片岡先生はハダシではなかった。でもよく見ると、何人か、ハダシの先生は職員室にいた。教頭先生や、若い女の先生。
「よろしくな、遠野さん」
「は、はい!よろしくお願いします!」
元気がいいなあと褒められながら、あたしは片岡先生について、教室に向かった。

つづく