「この学校では、ある期間、ハダシ教育をしているんです。生徒のみんなには、校舎の中や芝生の校庭では、ハダシで一日過ごしてもらうことに、なっています。もちろん、冬は違いますよ。でも、一年中ハダシという子も、結構いるんですけどね。」
ハダシ教育って・・・、学校をハダシで歩き回るの?廊下も、トイレも?いやだよ、そんなの。あたし、小さい時からハダシになったことって、ないんだから。いつも靴と靴下履いてたし・・・。
春の風の道路を歩きながら、これからどうしようと真剣に考えていると、ふと前方に小さな公園があることに気づいた。子供が数人、遊んでいるらしい。同い年かな。新しい学校に入る前に、ちょっと仲良くなっておきたいな。あたしはふんっと息を吸い込んで、ドキドキしながらその公園に近づいた。女の子らしい。結構大きい。5年生?でも、彼女たちの顔がはっきりわかるようになって、あたしは驚くことになってしまった。芝生の地面の公園で遊ぶ彼女たちは、みんなハダシだったのだ。そこでは5人の女の子が鬼ごっこのようなゲームをして遊んでいたのだが、おしゃれなカッコとは対照的に、みんなハダシ。ちょっとおかしいなと思うけど、ハダシ。これも、ハダシ教育の賜物なのかしら。春先で、寒くはないにしても。
あたしが公園の入り口でぼーっと突っ立っていたから、彼女たちにバッチリ見つかってしまった。
「あれ~!キミ、だあれ?」
「もしかして、転校生!?やったあ!何年生?ねね?」
「ちょっとマミ、そんな突っ込んじゃダメでしょ。引いてるじゃん、転校生ちゃん。」
実際引いていたのだけれど、彼女たちがハダシだということに、興味は惹かれる。ここって、ハダシで遊ばなきゃいけない公園なの?
「えっと、ごめんなさい、いきなり。わたし、今度小学校5年生になります、大宮アユナ。あなたは?」
「あたし?えっと、同じ、今度、小5の、遠野、ヒナ」
「ヒナちゃん?!かっわいい!5年生かあ。一緒なんだ。じゃあ同じクラスかもしれないね」
「私、権藤サユリ。名字、かっこいいでしょ?」
「あ、はいはい!あたしは、片桐ミツキ。」
「私、藤岡ウミカ。よろしくね、ヒナちゃん」
「みんな・・・。えと、これから、よろしく」
みんないきなり現れたあたしにすごく親しげに話してくれている。これなら、友達付き合いは心配ないかもしれない。
「ヒナちゃんの家、近くなの?」
「うん、すぐそこ」
「そうなんだあ。私たち、あのマンションなんだ。よかったら、いつでも来てね」
彼女たちが指差した先にあったのは、4棟のタワーマンション。どれも見上げるくらい高い。春の風は標高も高いから、最上階からはとても素敵な景色が見えるだろう。
「ありがとう。・・・あのさ、ひとつ、きいても、いい?」
「どうしたの、ヒナちゃん?」
「なんで、みんな、ハダシなの?」
あたしがそう尋ねると、みんな一瞬ポカンとして、あっと気づいてその理由を教えてくれた。
「ああ、これ?私たちね、学校で4月から10月まで、ハダシ教育やってるの」
「今4月じゃない?だから、もう今のうちからやっちゃおうってことで」
「待ちわびてたんだよ。冬は寒くて、ハダシなんて、慣れないからね」
「でも山田はいつでもハダシだよね?」
「あいつは、バケモノよ」
彼女たちはそう言って笑っていた。あたしは一人、とても考え込んでいた。ハダシ教育、4月から10月!?ほとんど1年中じゃない!なにがある期間よ、あの先生!!あたし、転校していきなり、ハダシで過ごし始めるの?それはちょっと・・・。
「どうしたの?ヒナちゃん?」
「あ、ううん、なんでもない。ありがとうね、いろいろと」
「ううん。じゃあ、また、始業式で会おうね!」
笑顔で彼女たちに手を振りながら、あたしは自分の顔が次第にひきつっていくのを感じていた。
「どうしよう・・・。どうしよう!」
つづく