途中で一緒になった当時の僕の友人で、高校では別れてしまった出口タケルと、彼女とで階段を上る。誰もが上履きを履いて歩く校舎内。階段を先に立って上る彼女の足元にそれはなく、歩く度にだんだんと汚れていくソックスの足裏が僕を興奮させる。
教室に着くと、今度は僕の席がわからない。どこだったっけ?
「おーい、大島!どうしたんだよ!早く来いよ!」
教室の前方で誰かが僕を呼んだ。見ると、中学時代の友人、中川リュウヤが手招きしていた。どうやらあの周辺に、僕の席はあるらしい。
「大島、持って来たか?アレ。」
「・・・え?」
僕がようやく自分の席に座れたとき、リュウヤが唐突に聞いた。タケルも、他の男子数人も、僕を囲んでいる。ん?
「だから、アレだよ、アレ。」
「あれって・・・、なに?」
まったく覚えがない。えーと、何か持ってくる日だったっけ。数年経ったんだから、覚えているわけもない。
「ごめん、忘れた。」
「はあ?またかよお。いつになったら持ってくんだよ、バトルカード。」
「ごめんごめん。明日は、かならず!」
「絶対だぞ!」
そうだったな、この時は、バトルカードなるものが僕たち世代に流行っていた。
カナの席は一番前の真ん中。教壇の目の前だ。そんな席にもかかわらず、靴下だけで授業を受けていると思うと、先生が羨ましい。
午前の授業を終えると、見知らぬ男子生徒が僕に話しかけてきた。もっとも、当時のクラスメイトだ。ええと、誰だっけ?
「大島くん、今日、撮影だったよね?屋上で。いまからやるみたいだから、行こう。」
「あ、そうなの?わかった、すぐ行くよ。」
どうやらいまから、お待ちかねの撮影タイムらしい。カナの姿を探してみたが、教室にはおらず、机の上も片付いている。もう屋上か。普段は入れないから、少しでも早く行きたかったのだろうか。とにかく僕も早く行こう。どんな撮影になるか、楽しみで仕方がない。
階段を最後まで登り、重い扉を開ける。通常は閉まっているその扉が、今日はすんなりと開いた。いきなりの強風に顔をしかめながら、外に出てみると、強い日差しが僕を照らした。屋上にはすでに、写真撮影の班員全員が揃っていた。もちろんそこには彼女もいる。あつい、あついよーと言いながら、靴下だけの足でぴょんぴょんはねている。真っ白な靴下に日が当たって、輝いて見える。確かに、靴下だけでこの屋上を歩くのは辛いかもしれない。しゃがんでてで触れてみると、確かに、しばらくは触っていられないほどに熱かった。僕が班の男子と二言三言話していると、写真撮影のおじさんがカメラを持って現れた。
「いやー、あっちいなあ。じゃ、早速撮り始めようか。さ、どんな感じで?」
その問いには、カナ自身が答えた。
「あのう、あの山を背景に入れたいんですよねえ。」
そう言って、背後の山を指差す。新入生研修で、2泊3日泊まる自然の家がある山で、山頂まで登山をしたこともある、思い出深い山だ。確かに、それを入れるのはグッドアイディアだ。
つづく