「サエ!いるの?!」
顔を出したのはコウダイだった。ひどく息が上がり、ブレザーもズボンも顔も土で汚れている。
「コウダイ・・・?どうしたの?」
「これ・・・。物は大事にしないと。」
差し出されたのは、両足揃った革靴だった。あの時、脱いで彼に投げつけ、土手の下へと転がった革靴。途中で脱ぎ捨ててきた、革靴。さらに彼はサエの鞄も持ってきてくれていた。
「鞄も。重かったよ。」
「コウダイ・・・。」
「サエ・・・、さっきは、ごめんなさい。」
彼は照れたように頭を下げた。彼は鞄と靴をサエに手渡すと、
「じゃ、また、月曜日。」
と言って、教室から出て行こうとした。
「なんで?!」
サエは急いで呼び止めた。コウダイが振り向く。
「なんで、わざわざ・・・?」
「何でって・・・、こうするしか、ないだろ?そのまま放っておけるわけ、ないじゃんか。」
「コウダイ・・・。あのね、私・・・。」
「ダメだよ。」
「私・・・。」
「サエ・・・。」
「コウダイが好きなの!ずっと、前から。あなたが、好きなの!」
サエは椅子から立ち上がり、コウダイの体に抱きついた。コウダイの匂いがした。
「サエ・・・。でも、僕なんか・・・。」
「ううん。コウダイがいい。私はあなたがいい。」
「でも僕・・・。」
「そんなことないよ。全然。コウダイは、かっこいい。全部、引け目なんて、感じなくていい。あなたは、完璧な人。」
「・・・本当に?」
「もちろん。ずっと一緒だった私が言うんだもん。大丈夫だよ。自身を持ってよ。もっと、自分にさ。あの時だって、私を助けてくれたじゃない?」
「ああ、あのとき・・・。サエ・・・。ありがとう。」
「・・・で、お返事は?」
「・・・もちろん、OKだよ。ありがとう。僕なんか選んでくれて。」
「やったあ!じゃあ、私たち、カップルだね。今日から。」
「初めてだよ。告白なんて、されたの。」
「私も、告白なんてしたの、初めて。」
「それも、靴下姿の女の子になんてね。早く、靴履きなよ。」
「あ、そうだった・・・。悔しくってさ。コウダイが全然わかってくれないから・・・。」
「ごめんね。サエのこと、わからなかった。まさか、僕に告白するなんて。」
「ウソ・・・。私も、コウダイが好きになっちゃうなんてね。」
「ただの幼なじみだったのにね。」
「うん。」
「これから、よろしく。」
「こちらこそ。よろしく。」
サエはもう一度、コウダイの体を抱きしめた。今度は彼も、サエの体に手を回した。暗闇になった校舎内を、月の明かりがぼんやりと照らし出していた。
「さ、じゃあ、帰ろっか。真っ暗だよ。」
「ううん。月が明るい。」
「そうだね。・・・だから早く靴履きなって。」
「・・・靴、履けないよ。靴下、汚れちゃったもん。」
サエは白いソックスの足裏を、コウダイに向けた。月の光に、靴下を履いた足が白く浮かび上がった。
おわり