なるべく人ごみを避けて、通路の端を歩く。自分が何階にいるのか・・・。歩いていくと、エレベーターを見つけた。その脇に、駅の簡単な案内図がある。電車を降りて、確か階段を登ったはずだ。それに、少なくとも改札は出ていない。sugocaをタッチした覚えはないし。だから私の電車はこの2階についたはず・・・。あった。これしかない。フウコはエレベーターのボタンを押し、下の階へと、向かった。靴下のままの足元が、今更ながら恥ずかしくなってきた。
扉が開くと、そこはホームだった。フウコがエレベーターを降り、靴下の足をホームに踏み入れたその時、猛スピードで電車が滑り込んできた。フウコがよく目にする電車のカラーだった。これに乗れば、着くのかな?いや、また間違えたら・・・。よく考えて。ここは博多。電車はたくさん来るから・・・。
ううん・・・、ホームのどこを探しても、自分の知っている地名を書いた電光掲示板はない。自分の家がどの方面にあるのか、わからなかった。直方かな?門司港?それは違うな、鳥栖?どこだろう?なにしろフウコはいままで、一人で遠くまで行くようなことはなかったから。いつも家族や友人と一緒で、そんな人たちに頼っていた。地図や案内図を見るのも苦手で、方向オンチ。
靴下のままさまよい続けるフウコ。精神と体力が疲弊し、ついに歩けなくなってしまった。ホームの椅子に腰掛ける。重たい鞄。野暮ったい制服。危なっかしい足元。フウコの目には涙が溜まっていた。どうしてこんなことになっちゃったんだろう。うちまですぐだったのに、なんで寝ちゃったんだろう。我慢しとけばよかった・・・。
一人椅子に座り、フウコは静かに涙を拭っていた。
そんな彼女の前に一人、足を止める人がいた。
「あれ?柏木?どうしたの、こんなとこで、一人で・・・。」
顔をあげると、そこにいたのはフウコのクラスで学級委員をしている、高本くんだった。成績もいいし、スポーツ万能だ。フウコは目の前に天使が舞い降りたかのような気持ちになって、涙を拭いた。フウコが帰り方をきこうとすると、高本くんが一歩はやく、こういった。
「ああ、よかった。おれ、なんか乗り過ごしちゃったみたいでさ。こんなとこ初めてで。どうしようかと思ってた。柏木、帰り道、わかるんだろう?教えてくれないかな?」
おわり