「あー、惜しい!もう一回!」

彼女は呆気に取られている僕には目もくれず、1人でゲームに没頭してしまった。僕はただ彼女の後ろ姿を眺めているだけである。靴を脱いだ方が、プレイしやすいのだろうか。白い靴下姿のまま、ラナはボタンを操作する。足を大きく開き、真剣な目つきでアームの動きを追う。まるでベテランプレイヤーのように見える。100円玉は次々に投入され、景品の箱は次第に横を向きだした。2本の棒の間から落とすようだ。
「ようし、今度こそ。」
 やはり棒についた滑り止めが仇になるのか、箱の動きは鈍い。もう10回以上はプレイしている。僕は口も挟めず、ただ横でラナと景品の様子を見ているしかなかった。靴下のまま、台の周りをあっちいって、こっちきて・・・。
「もう、全然だめ。やっぱり無理なのかなあ。」
自分の100円玉を使い切ったのか、ラナは急に落ち込んでしまった。こうなると僕は弱い。絶対にとってやる。いくらかかっても。僕は決めた。1000円札を100円玉に両替し、思い切って500円分投入。こうすると、100円分安くなる。500円で3回だ。
その様子を見ていたラナは、目を輝かせて僕の体にすり寄ってきた。
「やってくれるの?」
「あんだけ頑張ったんだから。取らないと。」
「うん!」
靴下のまま、ラナは一歩下がって僕のプレイを見守る。よし、よく景品の状態を観察して・・・。うん、奥の方に隙間が空き始めている。そこにアームを・・・。1回目、うまく入る。そして隙間が大きくなる。2回目、失敗。行き過ぎ。
そして運命のラスト。慎重に・・・。横、ちょうど真ん中。縦。隙間にアームを・・・。よし、ここだ。いけ!落とせ!後ろでラナも手を合わせる。僕の心臓はドキドキだ。アームが隙間に・・・ジャスト!あとは・・・。
ガタン・・・。
「あ・・・。」
「っしゃ!落ちた!」
「きゃー!やったやった!すごい、すごいよ、ショウ!良かったあ。」
景品のそれが入った箱を抱きしめるラナ。何とも可愛らしい。僕はその頭を撫でる。
「ラナも頑張ったもんね。取れて良かった。」
「うん。ありがとう。ショウ。」
「で、それ、なんに使うの?」
「ん~?ひみつ。」
「全然わからん。」
僕たちが店の外に出る頃には、空は暗くなり始めていた。
「家まで送ろうか?」
「大丈夫。バス停からは近いから。じゃあね。」
「また明日。」
歩道をかけて行くラナ。足元は・・・。靴下?!
「あ、ちょっと!」
思わず大きな声が出てしまう。ラナはキョトンとした顔でふりむく。
「なに?どうしたの?」
「く、靴は?」
「靴?あ!忘れた!!」
「なんて忘れものだよ。さ、取りにいこう。」
「ごめんねえ。」
「気づかなかったの?」
「うん、これが取れて、完全に浮かれてた。」
ラナの胸にはあれからずっと、それは抱きしめられていたのであった・・・。

おわり