「大丈夫?足、痛くないか?」
「へーきへーき。ちゃんと道ができてるし、土だけだから。」
クミコとタケルは、あれから少しの間は車の通れる山路を歩いていたが、途中で集落への近道だという道を見つけ、その細いながらもきちんと整備された遊歩道のようななだらかな道を歩いていた。急な地点には石をおいて作った階段もあり、靴下で歩くクミコでも安全に通れる。ただ、彼女の靴下は次第に汚れがひどくなっている。足の裏などもう真っ黒だろう。手にサンダルを持って歩くクミコの姿は、砂浜を歩いているように、タケルには見える。20分ほどその小道を下っていくと、ようやく集落に出た。道はきちんとアスファルトで舗装されていて、電線も張ってある。目の前を車が1台通り過ぎていった。
「ふう、やっと人に会えそうだよ。」
「そうね。さ、早く電話借りよう。」
「とりあえずあの家から。行こう。」
「うん。」
クミコは靴下のままついて行く。
「すいません、誰かいますか?」
そこはクミコたちの住む東京近辺ではまず見かけない、立派な家だった。門構えも立派で、荘厳な感じがする。いかにも旧家という家だった。鍵は開いており、中に踏みいるのは容易だったが、人の気配はしなかった。
「留守かな。」
「他の家に行きましょうか。」
「そうだね。おじゃましました・・・。」

クミコが振り向くと、目の前におじいさんの姿があった。

「ぎゃ!!」

おもわずしりもちをついてしまう。同時に手からサンダルが放り出される。

おじいさんは手に鎌を持ち、背中に薪の詰まった大きなかごをしょっている。服装はどこか昔っぽいものだった。タケルはクミコを立たせると、ドキドキする心臓部を抑えながら、なんとか口を開いた。

「あの、勝手におじゃましてすいません。ええと、電話を、貸していただけないでしょうか?」

するとおじいさんはきょとんとした顔をして、曲がっていた腰を急にまっすぐにのばした。

「かーっと!おいおい、君たちは誰なんだ?!どっから入ってきた!?」

「え?」

みると、家の中はいろんな機材がごちゃごちゃとおいてある。さらに今風の身なりをした人がたくさん・・・。

「これって・・・。」

「さつえい?」

「ったく、じゃまするんじゃねえよ。とんだアクシデントだ。」

監督ふうの、眼鏡をかけ、口ひげをはやした大男が、言った。


 「おそいですねえ・・・。」

「じきにきますよ。実験は明日でもいい。」

その頃、一足先に実験場についていた准教授は、その(万年)助手と共に、そこのテーブルについて、ゆっくりとインスタントコーヒーを飲んでいた・・・。

おわり