「おはようございます。」
僕が意気込んでいると、ふいに後方から声がした。いつの間にか僕の真後ろに到達していたらしい。僕はあわてて振り返り、精一杯挨拶をした。お辞儀までして。
「お、おはよう、ほざいまぶ。」
顔を上げると、そこには女の人がたっていた。手元にはひもがかけられ、それに犬が繋がれている。つまり、犬の散歩中。その女の人はどうやら僕より何歳か年上、高校生くらいだった。黒髪を肩のあたりまでのばしている。服装は、ジャージだった。どちらかというと、かわいい、清楚な感じのする人だった。僕はこんな人と話したことがあまりなく、次の瞬間には下を向いてしまった。体中に冷や汗をかいている。このまま立ち去るのかとも思ったが、女の人は続けて話しかけてきた。
「こんな時間に、散歩?」
「あ、そうです、はい・・・。」
そしてまた下を向く。女の人が連れた犬が目に入る。彼女はそれをきづいたのか、しゃがんでその頭を撫でてみせた。その瞬間、僕は目を疑った。ほっそりとしたきれいな足から続く、女の人の足元に、靴がなかった。靴下だけだった。白い、くるぶしの少し上くらいまでのソックス。彼女は半ズボンをはいていて、それはよく見えた。
「かわいいでしょ?ココアっていうの。犬、大丈夫?」
僕は彼女の足元から目を離せなかった。彼女は鋭いことに、それにまで気づいたのか、再び立ち上がり、数歩僕の方に近づいてきた。そして、耳元でささやいた。彼女の息が頬に当たる。
「これね、なんていうのかな、癖っていうのかな、とにかく、何日かに一回やってるんだけどさ、うちから靴履かずに出て、靴下だけで散歩するの。これ、気持ちいいんだ。すっかり虜になっちゃってて。ごめんね、驚かしちゃって。」
僕は顔を上げ、彼女の顔を見た。かわいい。そんな彼女が裸足で町中を・・・。僕はすっかり心打たれていた。時間も忘れてしまうほどに。
つづく