「じゃあ、ちょっと着替えてくるから待ってて!」
「はーい!」
敬礼をするハルナにくすっと笑いながら家に帰ると、お父さんがテレビを見ていた。窓を開け放しているため、テレビの音が外まで漏れ出ている。お母さんは近所の人の家でお茶会を開いているらしい。最近は4Kなるものが見られるテレビもあるそうだが、島にはそんなものはひとつもない。メイの家族は、両親と妹、おばあちゃんの5人。おじいちゃんは2年前に亡くなった。79歳だった。肺が弱っていたらしく、隣の島の病院で、メイたち皆に看取られた。
メイは家に着くとすぐに靴下を脱ぎ、庭の蛇口の方へ。靴下を透過して、素足にも土がついていたためそこでしっかりと足と靴下を洗うと、自室のタンスから新しい靴下を取り出し足を通す。学校では靴下を履くのがマナーといわれているから仕方ないが、私服の時は靴下を履くことはまずなかった。もともと私服は少なく、靴下に至っては、学校用の白いソックスが数足と、あとはお出掛け用が1足あるだけである。靴も、学校用の白いスニーカーのほかにはサンダルが2足しかない。オシャレなのと、もうひとつはすぐにつっかけて外出できるビーチサンダル。隣の島に買い物にいくにはいつもよそ行き用の格好に素足にサンダルで、ふつうはビーチサンダルを使い回ししている。学校には、白いソックスにスニーカーだし。高校生になると、もっとお洒落しようかな、とメイは思っている。
「ん、メイ、どうしたんだ?学校、もう終わったのか?」
「ううん、ちょっとアクシデントあったから一回帰ってきたの!じゃ、行ってきます!」
「なんだあ、がんばれよー」
お父さんに送り出されて外に行くと、ハルナがネコと戯れていた。
「さ、じゃあ行きましょうか!」
「うにゃにゃにゃ・・・・あ、メイもう終わったの?じゃあね、チャトラさん、また後で!」
ハルナにチャトラさん、と名付けられた茶トラ柄のネコは、おなかを見せてコロコロしていたが、やがてにゃーんと鳴いて庭の方へ行ってしまった。
「さ、いろいろあったけど、ようやく学校いけるね、メイ!」
「あんたのせいでしょうがっ」
「いたたたた・・・・」
メイはハルナの頭をぐりぐりしながらも、港で会ったあの男の人が新しい先生なのかなと、期待を膨らませていた。
つづく