体育の着替えは、まだ3年生なので、男女一緒に教室でする。だがお互い、後ろを向いて。もし異性の着替えを見てしまったら・・・。
彼は見かけ通りに体育が苦手だった。特に今日のマット運動などは前回りくらいしかできない。
着替えを済ませた彼は、誘ってくれた友達を先にいかせ、靴下姿の彼女の後ろを歩き出した。マントは教室の彼のランドセルの中に入れてある。
靴下の足裏全体を床につけ、何のためらいもなく歩く彼女。時折見える彼女の黒く汚れた靴下の裏に、彼は興奮していた。
そんなこんなで体育館に到着し、体育の授業が始まった。ここからは男女別々、彼が彼女の姿を間近で見ることはなかった。ただ、再び教室に戻るときも彼女の後ろを歩き、階段を登る時にはっきり見えた、彼女の真っ黒な足の裏に興奮していた。
帰りの会が終わると、彼は一目散に教室を後にし、トイレでランドセルまでマントで覆い、鏡に映っていないことを確認すると、隠していた上履きを彼女の靴箱に返し、そこで彼女を待つことにした。といっても、謝るなんて、彼にできるはずもない。同じクラスの生徒が次々下校していく中、靴下姿の彼女は現れた。一人だった。彼はそれを彼女の真っ正面で見ていた。人に自分の姿は見えない。こんな安心感はない。彼女は自分の靴箱を覗き込むと、驚いた表情で上履きを取り出した。そしてそれをまた靴箱に戻し、首をかしげながら、スニーカーに足を入れた。あの汚れた靴下を履いていると思うと、彼は再び興奮し出した。彼女は雨の降る中、傘をさして下校して行った。
 十分楽しんだ彼は、汗をたくさんかいていた。なんともマントが暑い。人から見えない場所に行くと、首の位置で結んでいた所をほどく。しかし、なかなかその結び目は見つからない。あれ?おかしいな。まるで最初から繋がっていたみたい。どこにもその結び目が見つからない。彼は焦りだした。脱げない。マントが脱げない。あわてて彼はペンケースに入っていたハサミを取り出すと、首にかかったマントを切ろうとした。しかし、切っても切っても、すぐに元通りになってしまう。慌てた彼は、無理やり引きちぎろうとした。しかし全く歯が立たない。いよいよ彼は青ざめてきた。このまま脱げなかったら…。僕は一生誰にも相手にされないままだ。誰の目にも触れることがない。そんなの、悲しすぎる。どうしよう。どうしてとれないんだ。彼はそれから1時間、マントを脱ごうと悪戦苦闘していた。身体中、汗びっしょりだった。しかしマントは全く変化を見せない。人に声をかけても、誰一人として振り向いてくれるものはいなかった。疲れきった彼は、とぼとぼと歩き出した。外は雨が降り続いている。どこに向かうわけでもない。このままではおそらく家に帰っても、誰にも相手にされない。彼はただただ歩き続けた。いつまでも、どこまでもー。
その後、彼の姿を見た者は、誰一人としていなかった。


おわり