漁船の独特なエンジン音が遠くから聞こえてくる。あとは、海鳥の鳴き声と波の音だけ。目をつむっていると、つい意識が遠のいていく・・・。
「は、いけない、いけない、寝ちゃった。」
メイがあわてて体を起こすと、ちょうど寝ていた防波堤の下に、一人のセーラー服姿の女の子が立っていた。
「メイ!こんなところにいたの。探しちゃったよ。」
「あ、ハルさん!うん、ちょっと考え事してて。」
「なになに?今度私たちの学校に来るっていう、先生のこと?」
「え?いや、そんなんじゃ・・・。」
考えていたことをつっつかれて、あわてて目線を逸らす。
「うふふ、図星でしょ?だって、鼻が膨らんでるもん。メイって、ウソいう時はいつもそうなるよね。わかりやすい!」
「うそ~・・・。今初めて言われたよ・・・。」
「うふふ、うそだよ!」
そう言って、ハルと呼ばれた女の子は、スカートを翻して、山へと続く道を走り始めた。
「あ、だましたなあ!」
「にげろ~。」
メイは沖縄県の小さな島に住む中学3年生。今日は3年生としての初めての登校日。つまり4月の始業式。島には小学生5人、中学生はメイと先ほど彼女が「ハルさん」と呼んでいたハルナの2人だけ。ちなみにハルナは中学2年生。メイからすると後輩なのだが、小学生、いや生まれた時からの付き合いで、二人は親友同然だった。もちろん、お互いため口だ。高校は島になく、高校は島の外に行かないといけない。メイも来年度は高校生だが、まだそんなことは考えていなかった。いま彼女の心は、今年度から島の中学校に赴任してくる新任の男の先生に向いていた。ほかの先生の話によると、先生はまだ25歳で、スポーツが得意らしい。どんな先生が来るんだろう。そんなまだ見ぬ先生のイメージを膨らませて、メイは港の堤防に朝からかれこれ2時間は座っていた。
つづく